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暴力に蝕まれた米国にダライ・ラマがメッセージ

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1999年9月・10月
チベット亡命政権発行「TIBETAN BULLETIN」

ダライ・ラマ法王は8月11〜27日まで米国に滞在し、インディアナポリスでカーラチャクラの法要を行ったほか、ニューヨーク・セントラルパークの満員の会場でチベット仏教の教義について語った。

ダライ・ラマの訪米のハイライトの一つは、ニューヨークのセントラルパークでの講演だった。戦争は時代遅れだとか、ニューヨークの一部の人々はどん欲だとか指摘した際にはまばらな拍手が起きたが、これを除くと5万人を超える聴衆は、8月15日、チベットの精神的、政治的指導者が届ける平和と寛容のメッセージを恍惚とした静寂の中で聞き入った。ニューヨーク市公園当局のヘンリー・スターン氏の言葉として報じられたところによると、この聴衆の規模は娯楽興業以外ではヨハネ・パウロ2世に次ぐものだったらしい。「ロックコンサートやその他の商業的な興業が、膨大でしばしば騒がしい群集を呼び寄せるこの緑豊かな場所に、これ以上厳かな雰囲気の聴衆が集まることは滅多にない」とAP通信は伝えている。

今回の訪問は、米国で最近増加している暴力事件によって予示されていた。ニューヨーク・タイムズ紙の毎週のコラムでA・M・ローゼンタールは最近のロサンゼルスの銃撃事件とダライ・ラマの教えのいずれについて書くかを選択しなければならなかったジレンマを認めている。

「しかし、それから私はロサンゼルスの銃撃事件についてはこのコラムで書きたくないということを悟った。これからも書くことはないだろう。その理由は『人間の善性の力』について書くつもりだったからだ。もし私がこのコラムで殺人者について書けば、その殺人者の悪は今日のこの欄で、私の友ダライ・ラマの世界におけるその価値をかき消すことになってしまう。そのようなことは断じてあってはならない」とローゼンタールは述べる。

ダライ・ラマは暴力の増加を「仲間である人間に対する慈悲と共感の欠如」に帰している。

「われわれは自信を持つためには内面的な力を高めなければならない。慈悲は実際に内面の力と自信を高めるため、仲間とのコミュニケーションが容易になる」とダライ・ラマは記者会見で語った。ダライ・ラマ自身3つの任務を持っているとも述べた。

第1の任務は、人間の価値を推進すること、
第2は、親密な相互信頼関係の推進、
第3は、チベット問題に関する責任である。

チベット問題について、ダライ・ラマはジュネーブとニューデリーでの焼身自殺とハンガーストライキを例に挙げ、チベット人の若い世代に不満が高まっていることを認めた。ダライ・ラマは、信頼できる筋から得た情報として、中国政府が最近中国内のチベット人学生に対して実施した調査で90%がチベットの独立を支持したことを述べた。「北大西洋条約機構(NATO)による在ベオグラード中国大使館誤爆に対する中国での抗議デモに北京少数民族学院のチベット人とウイグル人学生は参加しなかった」とダライ・ラマは指摘した。

今回の訪問は、「精神的」な性格のものだったが、ダライ・ラマが8月12日に新任のチベット問題担当特別調整官のジュリア・タフトと会談したことは政治的な意味があった。タフト特別調整官は、前任者のグレゴリー・クレイグ氏がクリントン大統領弾劾の危機に対処するためホワイトハウスの特別法律顧問に就任したのに伴い、1999年1月に就任した。米国務省ジェームズ・ルービン報道官はタフト特別調整官任命を発表した際、「特別調整官の主な目標は、中国政府とダライ・ラマないしその代表との実質的な対話を推進することにある」と述べた。中国は翌日、いつものように「内政問題」に干渉しているとして米国を非難した。

ニューヨークに滞在中、ダライ・ラマは米国の中国人社会の約20人と会い、チベット問題について意見を交換した。その中には魏京生や1960年のニューデリーでのアジア・アフリカ会議に出席したことのある80歳の元共産党員スマロー・マーもいた。ダライ・ラマは、チベット基金が主宰した資金集めのためのイベントでも演説をした。これにはニューヨーク州初当選を果たしたチャック・シューマー上院議員や前述のジュリア・タフト特別調整官、リチャード・ギア、ゴールディー・ホーンも他の人々に交じって出席していた。

8月17日、ダライ・ラマは、ニューヨークを離れてインディアナポリスに向かい、兄のトゥプテン・ジグメ・ノルブ(タクツェル・リンポチェ)に出迎えられた。トゥプテン・ジグメ・ノルブのチベット文化センターはカーラチャクラ灌頂儀式を組織した。カーラチャクラに参加した5千人の中には、ハリウッドの俳優リチャード・ギア、スティーブン・セーガル、ハリソン・フォードもいた。台湾人や日本人も出席していた。

ダライ・ラマは同日から1週間に及ぶ暴力防止会議の締めくくりとなるパネルディスカッションで改めて「温かい心」の大切さを強調した。そのディスカッションにはFBI元長官のウィリアム・セッションズやインディアナポリス地裁主席判事のサラ・エバンス・ベーカーらが加わり、インターネットで生中継された。

ダライ・ラマに対する警備は、非の打ち所がなかった。カーラチャクラ法要の会場には多数の警備要員が警戒に当たった。モーリーン・ハイドン氏は地元紙に「国務省当局は、厳重な警備の理由について詳しく明らかにしていないが、大統領命令でダライ・ラマに国家元首に適用される同等の警護がなされていたことは認めていた」と書いている。