ダライ・ラマ法王

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ダライ・ラマ法王による「五項目の和平案」についての言及抜粋


(1989年12月11日 ノルウェー・オスロ大学)

・・・このように悪化する状況をかんがみ、さらに流血の惨事が続くことを防ぐために、私は「五項目の和平案」と一般的に呼ばれている提案をしました。それは、チベットにおける人権と平和の回復にねらいがあります。昨年、ストラスブールにおける演説の中で、その提案について詳細を述べておきました。その提案は、中華人民共和国との交渉に合理的で現実的な枠組みを提示していると思います。しかし、これまでのところ、中国の指導者たちは建設的な回答を避けてきました。今年6月(1989年)に、中国の民主化運動が残虐な弾圧を受けたことは、チベット問題のいかなる解決も、十分な国際的保証が得られなければ意味を持たないという私の見解を裏付ける結果となりました。「五項目の和平案」は、私が講演の冒頭でお話しした原則や関連する事項を提示したものです。第一項目は、カムやアムドといった東チベットを含むチベット全体をアヒンサー地域(非暴力の聖地)とすること。第二項目は、中国の人口移住政策の廃止。第三項目は、チベット人の人権と民主的自由の尊重。第四項目は、チベットの自然環境の保護と回復。第五項目は、チベットの将来の地位と、チベット人と中国人の関係について真剣な話し合いを開始しよう、というものでした。ストラスブールにおける演説の中で私が提案したことは、チベットは完全に自主的な統治をする民主的政治統一体になるということです。

この場をお借りして、「五項目の和平案」の基本原理となっているアヒンサー地域、つまり平和の聖地についてご説明いたしましょう。この提案は、チベットのためだけでなく、アジアの平和と安定のために、非常に重要だと思います。

チベット高原全体を、人間と自然が調和して自由に平和に暮らしていける保護区にしようというのが、私の夢です。世界中の人々が、世界各地の緊張や圧力から逃れ、自分自身の内にある平和の真の意味を捜し求める地区としたいのです。チベットは本当に、平和を振興し発展させる拠点となり得るのです。
以下は、「アヒンサー地域」の主要な項目です。

チベット高原全体を非武装地域とする。
チベット高原における、核兵器及びいかなる兵器の生産も実験も備蓄も、これを禁止する。
チベット高原を、世界最大の自然公園あるいは生命保護区域とする。野生動物や植物を守るために、厳しく法的に規制する。資源の開発は、生態系を破壊しないように注意深く規制する。居住区域においては、継続性のある開発政策をとる。
危険な廃棄物を生み出す原子力エネルギーや他の科学技術の生産使用を禁止する。
資源の開発または自然保護政策は、平和と環境保護を積極的に振興する方向で行う。平和の促進とすべての生物の保護を目的とする機関が、チベットに、安心して暮らせるふるさとをつくる。
人権の保護と促進をするための国際機関あるいは地域機関を、チベットに設立することを奨励する。

チベットの高度と広さ(ヨーロッパ共同体と同じくらいの広さがある)、それにユニークな歴史と深みのある精神的な伝統は、アジアの戦略的な中心にあって、平和の聖地としての役割を果たすのにうってつけです。しばしば敵対関係を引き起こすアジア大陸の強大国の間に位置する、平和的な仏教国として中立地帯を形成することは、チベットの歴史的役割にも適っています。

アジアに存在する緊張を緩和するために、ソ連のゴルバチョフ書記長は中ソ国境を非武装化し、「平和と善隣の前線」とすることを提案しました。ネパール政府はそれ以前に、チベットに隣接するヒマラヤ国家としてのネパールを、平和地帯とすることを提案しております。しかし、その提案には国家そのものの非武装化は含まれていません。

アジアの平和と安定のためにも、敵対関係に陥りやすい強大国を引き離す平和地帯の設立が不可欠です。モンゴルからのソ連軍の完全撤退を含む、ゴルバチョフ書記長の提案は、ソ連と中国の間の緊張と対立の危険性を緩和するために役立つでしょう。世界で最も人口の多い二大国、中国とインドを引き離すためにも、真の平和地帯が設立されなければならないのは、明らかなことです。

アヒンサー地域の設立のためには、チベットからの軍隊と軍事施設を撤退させることが必要です。そうすれば、インドとネパールにも、チベットに隣接するヒマラヤ地域から軍隊と軍事施設を撤退させることが可能になります。

これは、国際的な同意によって実施されなければならないでしょう。それが実現できれば、アジアの全ての国々に最高の利益を与えるばかりでなく、特にインドと中国にとっても、遠く離れた山岳地帯に軍隊を張りつけておくという経済的な重荷が軽減され、しかも安全性は増進するのです。

チベットは、最初の戦略的非武装地域となるわけではありません。エジプト領土であるシナイ半島の一部は、イスラエルとエジプトを引き離すため、非武装地域となっています。コスタリカは、完全な非武装国家の一番良い例でしょう。
またチベットは、最初の自然保護地域、生命保護地域になるのでもありません。世界中に多くの公園が設立されています。いくつかの戦略的に重要な公園は、「自然平和公園」となっています。二つの例をあげましょう。コスタリカ—パナマ国境にあるラ・アミスタッド公園と、コスタリカ—ニカラグア国境にあるシ・ア・パズ計画です。

今年(1989年)私はコスタリカを訪問し、そして国家が軍隊を持たずに、平和と自然環境の保護に貢献して、安定した民主国家となっている実例を見ました。そのおかげで、チベットの将来に対する私の願いが単なる夢者狩りでなく、現実的なものだと確信できました。

(以下略)