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ツォンカパ大師御入滅601年目の御縁日の法話会

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2020年12月10日
インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ

今日は、ゲルク派始祖のツォンカパ大師が入滅された御縁日であるガンデン・ガチュー(兜率五供)の日に当たる。法王がインターネットを介して全世界の聴衆に説法をするため、公邸内の居室に入られると、南インドの僧院から、ツォンカパ大師への礼讃偈である『ミクツェマ』の誦経が中継された。これに続いて、ダライ・ラマ1世ゲンドゥン・トゥプがツォンカパ大師への称賛を著された『東方の雪を頂く山々の歌』が誦経され、法王も唱和された。

ツォンカパ大師の601回目の御命日に当たる法話会の冒頭で、大師への礼讃偈の誦経に唱和されるダライ・ラマ法王。2020年12月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

法王は次のようにお話を始められた。
「今日はツォンカパ大師が入滅された御縁日です。大師は釈尊の重要な経典の註釈者としてチベットで最も優れた方でした。大師の秀でた徳性は、大師が博学であり、学ばれたことを自ら実践されたことからきています。そして、実践によって体験された修行の成果を、大師はすべて私たちに伝えてくださいました」

「チベットのすべての偉大な導師たちの中でも、ツォンカパ大師は教義の難点に焦点を当てられた方でした。それについては大師の著書、とりわけ中観の見解に沿って空性について記された五大テキスト、すなわち①『菩提道次第広論』の “観” の章、②『菩提道次第中篇』の “観” の章、③ナーガールジュナ(龍樹)の『根本中論頌』の註釈書である『正理大海』、④チャンドラキールティ(月称)の『入中論』の註釈書である『中観密意みっち解明』と⑤『了義未了義善説心髄』に見ることができます」

「『了義未了義善説心髄』の中で大師は、『入中論』第6章の3つの偈(34、35、36偈)を強調されていますが、それらの偈では、もし事物に、客観的存在としての固有の実体があるならば、四つの論理的誤謬(注)が生じてしまう、と述べられています。私は『入中論』に述べられているこの3つの偈頌を毎日唱えています」

注:四つの論理的誤謬

  1. 聖者の等引(深い禅定の状態)は事物を破壊する。
  2. 世俗の真理は論理的な分析に耐えうる。
  3. 勝義における成立もまた、否定することはできないことになる。
  4. 一切の現象の自性は空であると言われているのは正しくない。

 

法王は、ツォンカパ大師がご自身の勉学と実践に対する態度について述べられた『私の目指したことはすばらしい』という著作から次の偈を引用された。


まず始めに、幅広くたくさん教えを聞くことを求め
次に、すべての教えを個人的なアドバイスとしてとらえ
最後に、日夜常にそれを修行し
そのすべてを教えが広まるように廻向した


『兜率天百尊上師瑜伽』(ガンデン・ハギャマ:ツォンカパ大師を本尊とするグルヨーガ)というよく知られた祈願文の偈では大師を次のように描いている。


この濁世にあって、幅広く学ばれ、瞑想に励まれ
世間八法を捨て、有暇具足を有意義に用いられた
守護者よ、あなたの為された驚くべき行いに
心から随喜いたします


そして法王は以下のように続けられた。
「大師の弟子として、私たちもこのように実践するべきです。偉大な註釈書、特に先ほど述べた中観についての五大テキストを勉強してください。しかし、勉学の目的は、実践を通して学んだことを自分の心の中で統合することだということを忘れないでください」

ツォンカパ大師の601回目の御命日に当たる法話会で、インターネットを介して聴衆に説法をされるダライ・ラマ法王。 2020年12月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

「亡命先のインドの地において、デプン、ガンデン、セラの三大僧院が再建され、他の勉学の拠点もできて、僧侶・尼僧たちが五大聖典(論理学、波羅蜜多学、中観学、倶舎学、戒律学)について学んでいますので、このことによって私たちはナーランダー僧院の伝統を受け継ぎ、守っている、と言う資格があるのではないかと思います。しかし、学んだことは実践と結び合わせる必要があるということを、どんな時も忘れてはいけません」

ここで法王は『縁起讃』のテキストを開いて、ツォンカパ大師の優れた徳性が著されている、後半部分の一つの偈を引用された。


その師(仏陀)に従って出家して
勝利者の教えを少なからず学び
瑜伽行に精進する比丘である〔私は〕
その大仙(仏陀)をこのように尊敬いたします(第53偈)


法王は軽快に偈頌を読み続けながら、十二縁起について触れられた。十二縁起の順観では、私たちが輪廻の生に入っていく過程が説明されているが、それを逆観で考察することにより、どのように解脱できるかも示されている。法王は、もし事物に固有の実体があるならば、変化することは不可能であると述べ、縁起についてチョネ・ラマ・リンポチェが、“縁” は空を否定せず、“(生)起” は事物の世俗における成り立ちを示している、と述べておられることに留意された。

法王は、ナーガールジュナ(龍樹)がどんな方だったかを知るためには、ナーガールジュナの人生についての歴史的説明を学ぶ必要はなく、重要なことは彼の著作を読むことである、と述べられた。ナーガールジュナのテキストを理解するためには、チャンドラキールティ(月称)の註釈書が助けになる。

修行道の段階についての簡潔な著述である『菩提道次第集義』を読まれる前に、法王は、この様式は、下士・中士・上士(初級者・中級者・上級者)という三種類の能力を持つ人が歩むべき修行の道を示されたアティーシャに由来する、と指摘された。法王は、勉強し、修行することの目的は煩悩を克服することだけではなく、煩悩が断滅した後に残される所知障をも根絶することにある、と強調された。そのようにすべての修行道を実践するのである。

ダラムサラの法王公邸からネット中継によって開催された法話会で、ツォンカパ大師のテキストを読まれるダライ・ラマ法王。 2020年12月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

ここで法王は、菩提心生起について触れられ、菩提心を起こすための2つの方法について話された。ひとつは因と果の7つの教えに依るもので、もうひとつは自他の立場を入れ替えて考える方法である。後者についてはシャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』に詳しく説かれている。しかし、この著作の人気は中央チベットでは衰退していたと法王は説明された。このことが、法王がクヌ・ラマ・リンポチェからこの著作についての伝授を受けられたことの理由の一つであったのだ。

テキストの最後の偈まで読まれた法王は、チャンドラキールティの論理に従えば、固有の実体をもって存在する事物は何も見出せない、と述べられた。

法王が読まれた3冊目のテキストの『修行道の三要素』は、ツァコ・ガワン・ダクパの要請に応えて大師が記されたものである。菩提心についての記述とされる偈頌のところで法王は、これらの偈を自分自身の心に適用する上で、何としてでも解脱に至りたいという出離の心を起す強い決意を培うために用いることができることを発見した、と述べられた。

正しい見解の項目に関連して、大師は以下のように簡潔に述べられている。


あらわれによって実在論を取り除き
空によって虚無論を取り除き
空が因や果としてあらわれるさまを知ったなら
もはや極端論にとらわれることはなくなるだろう(第13偈)


ツォンカパ大師の3冊の主要な著作を読み上げられた法王は、聴衆を菩提心生起の短い儀式に導かれた。法話会のまとめとして、法王は弟子たちに、大師が説かれた通りに実践することを誓い、学んだことを心において統合するようにと要請された。

ここで、3人の転生活仏の方々が法王に質問し、簡潔な回答を得たが、そのうちレルン・リンポチェは、彼には夢があるが、そのうちの一つは他の人々から託された願いであると話した。その願いとは、法王のご長寿のために祈願すること、そして法王に深遠な見解についての教えと広大な行いについての教えをこれからも説き続けていただくように請願することである、と法王に告げた。

ツォンカパ大師の御命日を祈念して行われた法話会で、法王に質問をするセルコン・リンポチェ。2020年12月10日、インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ(撮影:テンジン・ジャンペル / 法王庁)

これに対して法王は以下のように応じられた。
「チベットから届けられる写真を目にする時、チベット人が私に対して寄せてくれている敬信の思いを感じ、長生きしなければいけない、という気持ちに駆り立てられます。チベット人たちは私が長寿であることをこんなにも願い、私を信じてくれています」

「私が亡命した頃、チベット仏教は世界にあまり知られていませんでしたが、あれから状況は変化し、私たちはその変化に幾ばくかの貢献ができたと思います」

「私はダライ・ラマ7世の時代の学匠であったカトック・ゲツェ師に113歳まで生きるであろうと預言されたと言われています。私自身、チベット人の敬信により110歳まで生きられるのではないかと感じています。私もそのように祈願していますので、皆さんも一緒にこの祈願に加わってください」

廻向の祈願文が唱えられる時、法王はご自身の黄色いゲルク派の学匠の帽子を被られ、これにて本日の行事は終了した。