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ダライ・ラマ法王の特使ロディ・ギャリ氏による 中国との対話に関する声明

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(2009年12月10日 Tibet.Net 

(ワシントンD.C.)2009年12月8日に中国メディアが中国共産党統一戦線工作部の朱維群副部長のインタビュー記事を発表して以来、私は、我々と中国側との対話の過程について語られたこの記事を注視している。

現在我々は次回の対話について中国指導部と交渉中であり、それゆえにこのタイミングでこのような内容のインタビュー記事が出たことに困惑している。
対話の継続については、中国指導部も我々側と同じくらいに望んでいるものと私は理解しており、最終的には双方にとって満足のいくチベット問題の解決につながるものと我々は期待している。

中国側は、2006年2月に行なわれた第5回目の対話のなかで、チベットの独立を求めることなく中華人民共和国の憲法の枠組みの範囲内でチベット問題を解決していくとするダライ・ラマ法王の姿勢に対する謝意を明確に表明した。
その対話の記録を綴ったチベット側の記録を見ると、中国側はダライ・ラマ法王がとられているそのような姿勢について“Tamsangpo(タムサンポ:チベット語で「よろこばしい知らせ」の意)”と受けとめたとある。「〔ダライ・ラマが〕中華人民共和国の憲法を土台にして問題を解決したいと言っていることはよろこばしい知らせだ」と中国側は言ったのである。我々は中国側のこの発言を、ささやかながらも重要な対話の前進として受けとめた。チベットと中国の双方が受け入れることのできる解決策を求めておられるダライ・ラマ法王の姿勢を中国側は認識している、と我々はこのときはじめて思ったのである。これまで我々は対話のポジティブな面に目を向けてきたが、中国側のこの発言は、2002年に接触が再開されて以降の5年間のなかでも大した前進であった。そのような〔中国側の〕精神を、インドのダラムサラに戻ってすぐにダライ・ラマ法王にお伝えしたのである。

同時に中国側は解決が必要であったさまざまな問題に我々の注意を喚起した。
我々側も、そのようなすべての問題の解決に向けて全力で取り組むというダライ・ラマ法王の御意志を声明のなかで伝えている。さらに我々は、現状打破に達したときに望ましい結果となることを保障すべく声明を作成することについて双方が協議の場を持つべきではないかと提案したが、この提案に対する中国側からの返答はなかった。

それどころか2006年5月、中国政府はチベット本土において愛国的再教育キャンペーンをはじめとする弾圧キャンペーンの強化を開始した。ダライ・ラマ法王の人格を汚すような誹謗中傷を増やし、人民の宗教活動にもさらなる制限を課した。

2008年にチベット地域で行なわれたデモを受けて、我々は中国指導部との二度の正式対話と一度の非公式対話を行なった。2008年11月に行なわれた最近の対話においては、チベット人の基本的要求のアウトラインを明確に示し、かつ現在の中華人民共和国の憲法の条件を満たす『全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案』を中国側に提示した。

中国側はこれを即刻拒否し、記述されている重要点の多くを見ることすらせず、その後の接触の余地を与えなかった。しかしながらダライ・ラマ法王は、対話を第一とする姿勢をお続けになり、中国指導部にいま一度歩み寄る必要があると我々を諭された。

これまでのところ、対話に向けてのポジティブな動きはすべて我々側のイニシアチブによるものである。2002年に連絡通路が再構築されて以来、イニシアチブを取ってきたのは我々である。各回の対話の開始に際しても、いつも我々がイニシアチブを取ってきた。

ダライ・ラマ法王の姿勢に中国側がポジティブな反応を示したのは2006年2月の対話に限ったことではない。 2008年5月に深±(しんせん)で行なわれた非公式対話では、中国側は「三つの禁止事項」として、独立分離活動、暴力活動、北京五輪の妨害活動をやめるようダライ・ラマ法王に対して求めてきた。

〔ダライ・ラマ法王は独立分離活動も暴力活動も北京五輪の妨害活動もなさっていないので〕そのような禁止事項を設ける必要はないとして我々がこれを拒否すると、中国側は2008年7月の第7回目の対話の場で、「三つの禁止事項」の差し替えとして「四つの支持禁止事項」(北京五輪に不穏を招く恐れのある活動家を支持しない、犯罪行為を煽動するような計画を支持しない、テロ行為を支持しない、チベット独立を求める活動を支持しない)を提示してきた。中国側は、ダライ・ラマ法王は「三つの禁止事項」にあるような活動に御身を費やされてはいないとする我々チベット側の指摘を考慮したと言った。つまり、「三つの禁止事項」から「四つの支持禁止事項」への変更は、ダライ・ラマ法王がチベットの独立活動に御身を費やされていないことを中国指導部が認識したことのしるしであったのである。

そのような経緯から、最近の北京発の記事にはある中国人教授からいただいたアドバイスを彷彿とさせられた。その教授は長年にわたって中国政府に仕えておられる一方でチベット問題に携わっておられる人物であるが、「我々は中国指導部に期待してはいけない。ダライ・ラマ法王に被せた分離主義者の帽子をおろす政治的勇気が中国指導部にあるなどと期待してはいけないのだ。たとえ彼らが、ダライ・ラマ法王にそのような動きがないことを明確に認識していてもだ」とおっしゃった。
「仮に中国側がダライ・ラマ法王に被せた分離主義者の帽子をおろしてみなさい。現行のチベット政策についても、ダライ・ラマ法王のチベット帰還についても、中国の人民に対して正当化できなくなる」と私におっしゃったのである。

メディアを通じて交渉をするなと何度も我々を戒めてきたのは中国側である。中国側は我々に、面と向かって直接言え、と強く主張していた。しかしながら、選択的なインタビューを特定のメディアに流すことで障壁を増やしているのは中国側である。2008年7月の第7回目の対話のなかで、中国側は「三つの禁止事項」と比較すればポジティブな姿勢を「四つの支持禁止事項」のなかに織り込んできた。

しかしながら会談後、ダライ・ラマ法王にご報告するために向かったインドに我々が到着するよりも先に、中国側は徹底的にネガティブなメッセージをメディアに発表したのである。

中国側が本当に真剣にチベット人の苦悩に取組みたいとしているならば、中国の憲法に示されている通りの少数民族の権利を認めたいとしているのならば、我々の連絡ルートと対話の席においてこれをなすべきである、と我々は思う。
ダライ・ラマ法王は現在も対話に向けて取組んでおられ、我々はいつでも対話の続きを始める構えである。


(翻訳:小池美和)