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ダライ・ラマ法王、世界的経済恐慌を語る

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(2009年5月5日 ビジネス・ウィーク誌 スティーブ・ハム)

私はダライ・ラマのファンである。私の精神的アドバイザーで、コロンビア大学仏教学教授であるロバート・サーマン氏の尽力に感謝したい。亡命中のチベット人の精神的指導者であるダライ・ラマに会い、ましてや個人的に面会できる機会が持てるとは思いもよらなかったが、それが今朝起こったのだ。10分間の面会はセールスフォース・ドットコムのCEOであるマーク・ベニオフ氏が準備してくれた(彼は明らかにチベット仏教徒社会に対して何らかの魔力を持っている)。今回はビジネス・ウィークの取材ということで、私はダライ・ラマに世界的経済恐慌についてたずねた。

彼の文章を読んだり、話を聞いたりしたことがある人なら、彼が穏やかな確信に満ち、そこに暖かいユーモアのセンスも入っているのを知っているだろう。彼との個人的会見は、私にとって心が落ち着き、また興奮する経験であった。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、この時はそうだったのだ。

会見はウォルドルフ・アストリア・ホテルの、彼のスイートルームで行われた。なんというギャップだろう。僧服に身を包んだ聖職者が、20世紀資本主義の壮大な遺物の中にいるのだ。彼は優しい握手をし、親しげに真っ直ぐ見つめる。本当に私に興味を持っているように見えた。彼は自然に流れるように、穏やかに話す。流れの中で岩の上に泡立つ水のようだ。話の途中、時折、低いうなり声を出す。それは、チベット仏教徒の濁声で経を上げる声を思わせ、小さな祈りが出ようとしているようだった。

緊張していたため、私の筆記はいつもよりさらにひどかった。デジタルレコーダーを持って行ったのは幸運だった。以下は、彼のコメントの一部を編集したものである。

── 崩壊の原因について

法王:

私は、友人のビジネスマンを含めて人々に言うのですが、この世界的経済危機は、あまりに多くの強欲や思惑、偽善による不透明さから引き起こされたものです。これは道徳と倫理の問題です。最初から、隠しごとをせず正直であってください。

── 金銭への執着について

法王:

お金にしか関心がない人々がいます。ひたすらお金、お金、お金です。このような人々は、金融危機が起きると大変な混乱に陥ります。もちろん、お金は重要です。お金がなければ生きていけません。ですが、それだけが価値基準ではありません。

私たちは他にも価値あるものを持っています。幸せな家族、思いやりのある家族、愛情に満ちた家族、情けある社会。こういった人々は、金融危機にもあまり混乱がありません。

ですから、この世界的経済危機は、私たちに他の価値を見つけるべきだと気づかせてくれるのです。お金の価値だけでは、確かではありません。限りがあるのです。

── 仕事や貯蓄を失った人々は、その怒りをどうすべきか

法王:

現実に、今、既に悲劇は起こっています。さらに不満や怒りを持つかわりに、今こそ他の可能性について考えてください。努力をしてください。 その方が良いのです。

チベットにはこんなことわざがあります。九度失敗しても、落胆せずに九度努力をせよ。

── 経済危機に対する仏教的アプローチについて

法王:

仏教では、物事は因縁によって起こります。現在の危機は、何年も何十年もの間に生じてきたのです。あらゆる因縁が完全に熟していました。どんな力もそれを止めることはできなかったのです。それは自然の法です。ですから、それを受け入れるのです。

後に、私はサーマン氏に、なぜビジネスマン達がダライ・ラマの言葉に耳を傾ける必要があるのかをたずねた。彼の答えはこうだった。

「ニューエコノミーでは、崩壊後、ビジネスに倫理が戻ってきている。倫理は顧客をつなぎ止める。それが長期的繁栄につながるのだ。」


(翻訳者:熊谷 恵雲)