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ダライ・ラマ法王、『縁起讃』の解説と観世音世間自在の灌頂

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2018年11月15日
日本、横浜

空は澄み、横浜湾にかかる橋が朝陽に照らされる中、ダライ・ラマ法王は今朝、聴衆が到着するより前に法話会場へと歩いて向かわれた。
おひとりで法座に着座されると、本日授与される観世音世間自在の灌頂に必要な前行修法(準備の儀式)を執り行われた。

観世音世間自在の灌頂授与のため、準備の儀式を執り行われるダライ・ラマ法王。2018年11月15日、横浜(撮影:テンジン・ジグメ / 法王庁)

ひとたび会場のホールが人々で埋まり始めると、最初に日本人、続いて韓国人、中国人、そしてモンゴル人によって『般若心経』が読誦された。

法王は準備を整えられると、このようにお話を始められた。
「おはようございます。今日は、大いなる慈悲の顕現である観世音世間自在(ジクテン・ワンチュク)の灌頂を皆さんに授与いたします。一般的に、私は仏陀の教えを二つのカテゴリーに分けています。まず一つ目は、顕教を含む三つの法輪からすべての弟子たちに開いて説かれた教えであり、二つ目は、特別なグループや個別の弟子に対して授けられる教えです」

「インドでは、密教に古派・新派のような区別はありませんでしたが、偉大な翻訳官であったリンチェン・サンポの時代に、そのような分類がチベットに普及しました。ニンマ派のタントラには、遠伝経典のカーマ(仏説部)、近伝経典のテルマ(埋蔵経)、そして深遠なる清らかなヴィジョンによる仏陀のお言葉の伝統という教えがあります。この灌頂はダライ・ラマ5世の清らかな秘密のヴィジョンに由来するものです。私はとても若い頃にこの灌頂をタクダ・リンポチェから授かり、関連するリトリートの多くに取り組みました」

「私たちが亡命した当初には、儀軌次第が書かれたテキストの写しがありませんでしたが、最終的には私の手元に届きましたので、それ以来、ダライ・ラマ13世の習慣に則って、毎月10日には観世音世間自在に供養する儀式を執り行っています。チベットには、ポタラ宮殿に有名な観世音世間自在の像があり、もうひとつはジョカン寺に、そしてゾンカル・チョーデ僧院に保管されたワティサンポ(またの名をキーロン・ジョヲ)という三つの観世音世間自在像がありました。ダライ・ラマ5世が観世音世間自在のリトリートを行われていた際には、その三体の像を一緒に持ち運ばれて、ワティサンポの心臓あたりから仏たちが出現するヴィジョンをご覧になるという体験をされています」

法話の最終日、聴衆に向かって説法をされるダライ・ラマ法王。2018年11月15日、横浜(撮影:テンジン・ジグメ / 法王庁)

「そのキーロン・ジョヲ像はゾンカル・チョーデ僧院の僧侶たちによってインドに運ばれ、今はダラムサラの私の元にあります。その僧侶たちは、そのキーロン・ジョヲ像のお顔の表情が変化すると言い、私が菩提心に瞑想して祈ると、微笑まれていらっしゃるようだということに気がつきました。私は夢の中でこのお姿と対面して話をしたことがあります。チベット人の中には、ダライ・ラマは観音菩薩の化身であるとみなしている人々もいるようですが、私自身は自分を菩薩の使者であると考えています」

法王はナーランダー僧院の伝統と、シャーンタラクシタ(寂護)がチベットに仏教を普及させた後に、それがどのように広がって行ったかについて語られた。中国の巡礼僧であった玄奘三蔵は、ナーランダー僧院を訪れてそこで学び、ナーガールジュナ(龍樹)の弟子のナーガボディに会したと言われている。最終的にナーランダー僧院の伝統はチベットからモンゴル、そしてカルムイク、ブリヤート、トゥバなどの共和国に広がっていった。

法王は、以前チベットでは『世界の荘厳たる6人と至高なる2人 注1』を尊敬すべきインドの学者たちとして崇めていたが、そこには重要な役割を果たした幾人かの導師たちが入っておられないことに注視された。法王はその方々のお名前を加えられて、新たに『ナーランダー僧院の17人の成就者たち』として自ら祈願文を書かれ、その17人全員を一枚のタンカ(仏画)に描くよう指示されたのである。クヌラマ・テンジン・ギャルツェン・リンポチェは法王に、インドの学者たちの中には素晴らしい成就者が複数おり、ナーガールジュナの『根本中論頌』や、ディグナーガの『集量論』に対するダルマキールティの注釈書である『量評釈』はサンスクリット語の仏典の中でも最もすぐれた業績であったと話されたことを述べられた。

  • 注1:二勝六荘厳
    世界の荘厳たる6人(ナーガールジュナ、アーリヤデーヴァ、アサンガ、バスバンドゥ、ダルマキールティ、ディグナーガ)
    至高なる2人(グナプラバ、シャーキャプラバ)
観世音世間自在の灌頂を授与されるダライ・ラマ法王。2018年11月15日、横浜(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

法王は、ツォンカパ大師が誕生されたクンブム近くの質素な村にお生まれになっている。ツォンカパ大師は、正しい根拠に基づいた分析を通して心を変容させ、人生を意義あるものにすることは可能であるという模範を私たちに示された。そして、私たちが無知に捉われている限り、すべての事物には独立した実体があるという観念が湧き起こり、怒りや執着などの破壊的な感情(煩悩)が私たちの心の内面に浮上する。ここで法王はアーリヤデーヴァ(聖提婆)の偈を引用された。

 

 

 

 

 

からだにはからだの感覚器官が行き渡っているように
無明はすべての煩悩に存在している
故にすべての煩悩は
無明をなくせば克服できる

つまり、無明にはそれを支える正しい根拠がないため、無明を克服することは可能であり、それと共に生じてくる問題を克服することができるのです。

続いて法王は、在家信者戒を授与されることを告知された。そして、仏陀たちは私たちの全ての悪行を水で洗い流してくださることはできず、その手で苦悩を取り除いてくださることもできず、ご自身が得られた悟りを他者に与えてくださることもできないということを指摘された。それではどのように有情を救済されるのかと言うと、正しい修行の道を示すことによって真理を示されているのであり、それを実践するかどうかは私たち次第である、と法王は述べられた。

観世音世間自在の灌頂授与の儀式の中で、赤い目隠しをつける受者たち。2018年11月15日、横浜(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

法王はまた、仏陀が悟りを開かれた後に、ご自身が悟られたことを他者に教えることを躊躇された理由について述べられた。それは、ご自身の理解を他の人々に説いたとしても、誰にも理解することはできないだろうと考えられたからであった。しかしながら最終的には、四聖諦(四つの聖なる真理)の教えを昔の5人の修行仲間に説かれている。その後、仏陀は第二法輪の中で般若経の教えを説かれた。そこで明らかに説かれた教えとは、独立した実体を持つ事物は何ひとつ存在しないという空の教えであり、その後ナーガールジュナが非常に詳しい解説をされている。一方で、間接的に説かれた教えとして、修行の道をいかに進んでいくべきかが示されており、アサンガ(無著)がマイトレーヤ(弥勒)の弥勒五法 注2 に基づいて明確にされている。

 

 

 

  • 注2:『大乗荘厳経論頌』『中辺分別論』『法法性分別論』『現観荘厳論』『宝性論』

ここで法王は、観世音世間自在の灌頂を授与される前に、ツォンカパ大師の『縁起讃』について解説の伝授をされた。ツォンカパ大師は16歳の時に地元アムドから中央チベットに向かわれ、大師の師であったドゥンドゥプ・リンチェン師はツォンカパ大師に対し、いかに仏教の勉強を追求するべきかについての明確なアドバイスを与えられた。そこで、ツォンカパ大師はカダム派のサンプー僧院に赴かれ、哲学的な勉強に従事されて試験を受けられたのである。

パシフィコ横浜国立大ホールで観世音世間自在の灌頂を授与されるダライ・ラマ法王。2018年11月15日、横浜(撮影:テンジン・ジグメ / 法王庁)

法王は若い頃、ある日の朝に『縁起讃』をすべて暗記されたことを語られた。後に、キノール地方ご出身のクヌラマ・リクジン・ テンパ師から解説の伝授を受けられ、それはカンサル・ドルジェ・チャン師から継承されたものであった。

法王はテキストを読み終えられると、熱心に聞き入っている聴衆に向かって観世音世間自在の灌頂の儀式を始められた。二日間に渡る法話の終わりに、会場内の異なる方向に向けて手を振られ、退場される時にはステージの際まで下りられて握手を求める聴衆に応じられた。 明日、法王は現代科学と仏教科学の対話に臨まれる予定である。