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ダライ・ラマ法王2009年来日レポート:5日目

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2009年11月 チベットハウスジャパン

2009年11月4日:四国〜沖縄


来日5日目。ダライ・ラマ法王は朝食後すぐに松山市のホールへ移動。ホテルからすぐのホールには400名の日本人僧侶が集まった。

ダライ・ラマ法王は、仏教とその他の宗教についての短い説明から話を開始。信仰と思いやりだけを強調する他の宗教とは対照的に、仏教においてはこれらを理論的に説くシステムが確立されている点を強調された。

「つまるところ、信仰と思いやりだけでは無知を取り除くことはできません。智恵こそが無知を治すのです。大乗仏教は釈尊のほんとうの言葉を反映していないという意見もありますが、しかしながら、ナーガルジュナはそのような意見を非常に強力に論破しています」

開始から早々にこのような予備的なコメントを述べることができたことで、ダライ・ラマ法王は哲学的な質問へと展開されていく対話の流れに明らかに満足しておられる様子であった。

ダライ・ラマ法王は、瞑想には様々な種類があることを説明され、仏教においては論理と各派の論法に重きが置かれている点を強調された。厳格かつ学者らしく僧侶として在るべき姿を具体的に示されてから、「もっと勉強し、もっと研究しなければなりません」と話をまとめられた。

ダライ・ラマ法王は、さらに次のように述べられた。
「20世紀初頭、こころは脳の一部であるかのように扱われていました。しかし、この20年から30年の間に、瞑想することでガンマ線が実際に増大することが科学的に証明されました。そこで科学者たちは、こころと呼ばれるものには脳に影響を与える何かがあると結論づけたのです。こころには様々なレベルがあります。眠っているとき、夢を見ているとき、目覚めているとき、気を失っているとき、死んだとき——こころのレベルは異なるのです。」

日本で主要な問題となっている自殺について質問されると、ダライ・ラマ法王は異例といえるほど力を込めて、
「自殺の現象は、忍耐力が欠如しているというサインです。短期的、近視眼的にしか物事を見ていないのです。チベットには『9回失敗したら、あと9回挑戦すべし』ということわざがあります。物事は、遠くまで幅広く見据えなければなりません。60億の人間がいますが、苦労を抱えていない人などひとりもいないのです」

最後に、早々に出た質問に答えて、
「チベット問題はただの政治問題でもチベットのみに関する問題ではありません。チベット問題は、精神性豊かな古来の伝統と文化が生きるか死ぬかの問題です。チベットの文化や伝統が生きながらえるなら、チベット人のみならずこのような精神文化を学びたいと願う10億人の中国人の兄弟姉妹を利することになります。環境についてもまったく同じです」

ダライ・ラマ法王はセッションが精力的に進んだことを明らかによろこんでおられ、
「このような対話をもっと頻繁に、もっと長時間にわたって行ないたい」と語られた。

ダライ・ラマ法王は、ふなや旅館で招聘側とのランチを急いで終えると、初めての訪問となる沖縄へ出発。沖縄の空港で地元高官の一団に迎えられた。

ダライ・ラマ法王はすぐに魂魄之塔(こんぱくのとう)へ車で向かわれた。魂魄之塔は平和への祈りが込められた沖縄最大の塔であり、3万5千人の沖縄戦戦没者が軍民・人種を問わず葬られている。

沖縄県民の群衆が背後から見守るなか、カトリックの司祭、日本の僧侶、そしてダライ・ラマ法王の三人が塔の前で戦没者に祈りを捧げた。三つの宗教の指導者が世界平和を祈念すると、サトウキビ畑の側らにいた参加者の多くからすすり泣きが洩れ、涙を拭く姿が見られた。

その後、道路を渡った場所にある沖縄菩提樹園に移動。気温は26度。熱帯の陽の光を浴びて聖なる菩提樹の若木が立っていた。釈尊が悟りを開いたとされる聖なる菩提樹の貴重な分け樹は海外に送られ、ここ、沖縄戦の戦地となった糸満市にも2003年、戦没者の慰霊と恒久平和を発信する象徴としてやってきた。

ダライ・ラマ法王は随行したチベット仏教僧とともに再び祈りを捧げ、記念植樹を行ないになられた。またダライ・ラマ法王は、《ホリスティック(全体論的)な智恵と思いやりによって世界の平和が守られるよう祈念する》という趣旨のメッセージを記された。

市民に向けてのひと言を求められると、ダライ・ラマ法王は、沖縄に到着して最初に訪れたのが3万5千人の戦没者が葬られているこの地であること、さらには、ここで亡くなった人々も私たちのだれにも劣らないいのちを持っていたのであり、戦争によってそのいのちを奪われ、友人や家族が遺されたことを強調して、
「問題がひとつもない世界を望むのは非現実的です。問題というものは絶えずあります。ですから、ほんとうに平和を祈るのであれば、対話を通して平和への糸口を探らなければなりません」と述べられた。

祈りを捧げておられたときに、ダライ・ラマ法王は木の上で鳴く鳥の声を聴かれた。それはインドで聴かれる鳥の声であり、さらにはラサで聴いておられたのと同じ声であった。そこでラサに想いを馳せられ、
「宗教的習慣ばかりか、鳥までも同じなのですね!」とおっしゃった。

また、周囲に集まったメディアの質問に答えて、
「大きな決意をもって立ち向かうならば、苦しみがよい結果をもたらすこともあるのです。ただ待っているだけでは幸せはやってきません。努力することです。祈っているだけ、願っているだけでは助けになりません。たとえ平和が保障されなくとも、私たちは努力しつづけなければならないのです」と述べられた。

ダライ・ラマ法王が120歳まで生きられるようにとの願いが込められたカトリックの司祭からの沖縄方言による歓待を受けられた後、ダライ・ラマ法王は今夜の宿となる近くのホテルへ移動された。


(訳者:小池美和)

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