ダライ・ラマ法王2009年来日レポート:4日目

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2009年11月 チベットハウスジャパン

2009年11月2日:四国


来日4日目。秋晴れのこの日、ダライ・ラマ法王の一日は四国への移動とともに始まった。木々の生い茂る渓谷や山々を抜けて「道後温泉 ふなや」に到着。創業383年のこの旅館は、代々の天皇とその一家を迎えてきた宿として知られている。

ダライ・ラマ法王は、到着後すぐに地元記者団と会見。「地方の豊かな自然、人間味ある建物の数々、むかしながらの農地を車窓から眺めながらの車の旅は大変たのしいものであった」と記者団に述べられた。

50年間の亡命生活について訊ねられると、《悲しみと引き換えに、結果的にポジティブに捉えることのできる面も生まれた》ことを強調され、例として、亡命チベット人がチベット本土にいるチベット人よりも高い水準で教育を享受している点を挙げられた。

とりわけ、人が自分について説明するときに、互いの共有点を述べるかわりに、“私は仏教徒です”“私はキリスト教徒です”“私は無心論者です”と二次的な特徴を述べてしまうことがいかに多いかという点を指摘され、次のように述べられた。

「他者の権利を尊重することです。他者の意見を尊重しなければなりません。私は仏教徒、私はキリスト教徒、というふうに二次的な特徴を過度に強調してしまうと、“私たち”“あの人たち”という感情が生まれます。“あの人たち”という感情が生まれてしまうと、いじめよう、攻撃しようという誘惑に駆られやすくなります。今日(こんにち)、私たちは、経済的、環境的に、人間として共通の利益を求めていく必要があります。共通の目的に向かって働きかけねばならないのです。常々申し上げていますように、“私たち”と言うときには世界中の人々のことを指していなければならないのです」

ダライ・ラマ法王が記者会見の会場を出られると、松山市の中村時広市長が挨拶でお出迎えになり、「ダライ・ラマ法王の長年の苦闘が最終的によい結果に転じることを願っている」とダライ・ラマ法王に祈念の意を伝えられた。

ダライ・ラマ法王は、高野山金剛峰寺 松長有慶座主ならびに四国地区仏教会連合の来日招聘者とのプライベート・ランチの後、松山市の愛媛県武道館へ移動。平成15年にオープンした同武道館は黒と金を基調にした巨大な木組みの国内でも屈指の武道館で、古来の叡智と最先端技術の融合である21世紀の象徴として設計された。

ハイテク性を備えた垂木の天井の下に広がるアリーナ席は、満員の観客が席を埋め、左右に設置された高解像度スクリーンを見つめながら、ダライ・ラマ法王の講演『自分を幸せにする生き方』に耳を傾けた。

「スーパーマーケットへ行って、“幸せやこころの平和を売っていただけますか?” と訊ねてみてください。“売れません”と言われますね。大きな病院へ行って、“精神的に穏やかでいられる注射を打ってください”とお願いしたとします。一時的には穏やかでいられるでしょうが、根本的な原因にはなんら効果がありません。私たちは自分の内面を変革し、利他のこころを養うことで幸福や平和を求めていかなければならないのです」

ダライ・ラマ法王は、《ほんとうの温かいこころを育みたいのであれば、広い視野でとらえ、グローバルかつホリスティック(全体論的)に考えなければならない》と力説された。

講演が終ると、質問を希望した聴衆がマイクを求めて跳びはねるように席を立ち、長い列を作った。子どもの問題や自己嫌悪に悩む苦しいこころの内を吐露する個人的な質問が多かった。ダライ・ラマ法王は、ひとつひとつの質問に直接的かつ実際的に医師のように答えながら、《広い視野でとらえ、自己という狭い枠組みの外に目を向けて考えることが大切である》と説かれた。

「愛とは、言葉を使ってもたらせるものではありません。愛とは、生きていくために消費するものなのです。愛を消費することで、あらゆる行動が愛となって現れます」とダライ・ラマ法王は述べられた。


(訳者:小池美和)

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