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カルマパ17世インドに亡命 中国、「国家への反逆」否定

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2000年1月8日
産経新聞

【北京7日】チベット仏教カギュー派の最高活仏、カルマパ17世(14)が今月初め、豪雪のヒマラヤを走破してチベット亡命政権のあるインドに事実上、亡命したことが7日、明らかになった。中国政府は同日、国営新華社通信を通じてカルマパ17世の脱出を異例の早さで確認する一方、置手紙の1部を公表する形で「国家への反逆ではない」と亡命説に反論したが、中国政府のチベット政策に打撃であることは間違いなく、今後、チベット自治区の民族独立やチベット仏教への当局による引き締めなどの影響が出そうだ。

◆◆ ダライ・ラマ14世と合流か ◆◆

チベット仏教の主要宗派の最高活仏による脱出は、最大宗派であるゲルグ派のダライ・ラマ14世が1959年にj亡命して以来。インド北部ダラムサラの亡命政府当局者は7日、AP通信ニューデリー支局に対してカルマパ17世が現地に身を寄せていることを確認し、近く公式声明を発表する用意のあることを明らかにした。

カルマパ17世は先月28日にチベット自治区の主要都市ラサの寺院を離脱したもよう。亡命政府への到着は今月5日、すでにダライ・ラマ14世との面会を終えたとされる。

ラサの寺院を随員4人と抜け出したカルマパ17世は、約1500kmの山道を歩き続け、インド入りした時点では「衰弱した状態」(英紙デーリー・テレグラフ)だったという。

一方、新華社電はカルマパ17世が「少数の随員とともにラサの寺院を離れた」とする国務印(内閣)報道官の発言を伝え、脱出の事実を確認した。

新華社電は亡命政府への合流を意味するインド行きには触れず、カルマパ17世が寺院に残したという置手紙の1部を公表。「仏教行事に使われる楽器と黒い帽子を探しに外国に行く」という目的のほか、「政府や国家などへの反逆行為ではない」といった内容が述べられていたと強調している。

カルマパ17世は1992年9月、中国政府のもとで活仏に認定されていた。

◆◆
約40年ぶりに発生したチベット仏教主要宗派の最高位活仏による亡命劇は、インドでの亡命政府を率いる精神的指導者で、ダライ・ラマ14世の影響力排除を図ってきた中国政府のチベット政策に打撃を与えるものといえる。中国側が7日、脱出の事実関係を大筋で確認したことは、主導権をわずかでも残すことで事態の影響を極力抑えたいとの判断によるものと見られる。

注目されるのは、カルマパ17世が1992年9月というごく最近に中国政府の公認で活仏となり、そのチベット政策を幼少期から徹底的に注ぎ込まれた世代に属する点で、いわば「子飼い」の活仏の反乱だったことだ。

脱出の動機など詳しい背景は、亡命政府で発表されるカルマパ17世自身の声明を待たなければならない。なぜ豪雪のヒマラヤ山系を厳冬季に走破してまでインドに逃れる必要があったのか。

ただ、中国政府の「亡命」説の否定には常識的に無理がある。新華社電が伝える通り、楽器など宗教用具を得るための離脱だったならば、ダライ・ラマ率いる亡命政府に駆け込んだ若者が、今後、何事もなくラサに戻り、カギュー派最高位の活仏として遇せられるのだろうか。中国政府が脱出を事前に容認していたのではとの見方も1部にあるが、危険を冒してヒマラヤ越えのルートをとったことを考えると、これも不自然だ。

中国政府はチベット自治区内での依然強い影響力を持つダライ・ラマと国際的な対決を続ける一方、自治区内では政府主導の枠内で宗教活動の容認や民主向上策でチベット住民の人心掌握に努めてきた。チベット政策への自信から昨年は延べ548人もの外交官、ジャーナリストらのチベット視察を認めていた。中国側は今後、チベット自治区内の影響拡大を防ぐため現地での引き締めを図らざるをえないものと見られる。また、ダライ・ラマとの水面下でのパイプなど、チベット問題全般への影響も予想される。

中国国内では、昨年始まった気功集団「法輪功」への弾圧から、精神的な領域に対する締め付けが全般に強まっている。政府公認の宗教活動は保障の範囲内なのだが、バチカンとの関係進展を犠牲にして独自のカトリック司教任命に踏み切った6日の動きなどからは、公認宗教に関してもある種のかたくなさがにじんでいることも否めない。