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インタビュー|ダライ・ラマ法王日本・東アジア代表部事務所アリヤ・ツェワン・ギャルポ代表:プーチンと習近平は人類にとって脅威

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2022年3月20日
ジャパン・フォワード
麗澤大学 ジェイソン・モーガン

ダライ・ラマ法王日本・東アジア代表部事務所のアリヤ・ツェワン・ギャルポ代表は、中国がチベットの宗教、言語及び生活様式を消し去ることに失敗したのと同様に、ロシアのプーチンは、ウクライナ侵攻において失敗すると予測している。

チベット民族蜂起記念イベントにて、アリヤ・ツェワン・ギャルポ博士は演説を行った。

令和4年1月下旬、ダライ・ラマ法王日本・東アジア代表部事務所代表の アリヤ・ツェワン・ギャルポ博士は、ジャパン・フォワードの取材に応じた。アリヤ博士は、インドのダラムサラに所在する 中央チベット政権(CTA)の所属で、以前もジャパン・フォワードの 紙面に登場したことがある

インタビューは、多岐の話題に及んだ。中でも最も差し迫った話題は2022年北京オリンピックだった。アリヤ博士は、中国による 人権侵害が継続する中で、中国共産党にオリンピック大会を開催する機会が与えられたことに対して、重大な懸念を示した。

そして、世界は今、新たな危機に直面している。それはウラジーミル・プーチン率いるロシア軍によるウクライナ侵攻だ。今回のインタビュー続編では、中国とチベット、そして、東ヨーロッパで展開されているウクライナ侵攻が東アジアにどのように影響するのかについてアリヤ博士が語った。 インタビューの抜粋は以下のとおり。

2022年3月12日、東京都内でチベット民族蜂起記念日のイベントが開催された。写真右:マイクを手に、街頭で演説を行うアリヤ博士。

複数メディアによる最近の報道において、ウクライナ当局は亡命政権を樹立し、敵対的外国勢力による何十年にもわたる占領に備えなければならなくなる可能性が示唆されています。私は、すぐさまチベットのことを連想しました。

中央チベット政権はインドのダラムサラに本拠を置いています。中央チベット政権は、非公式に亡命政府と呼ばれますが、それよりも当政権が、チベット国内、インドそして世界各国に遍在するすべてのチベット人を代表する立法機関であり外交機関であるという事実に着目していただきたいと思います。

チベット人が国外離散した原因は、中国による不法侵略です。中央チベット政権の最終目標は、チベットの自由と民主主義の回復です。チベットは歴史的にまぎれもなく独立国家なのです。ダライ・ラマ法王は、1980年代から中国の憲法との整合性を図りつつ、チベットの真の政治的自治権を確立させる「 中道のアプローチ」と呼ばれる政策を提唱されています。

ウクライナへの侵攻が収束し、そして、主権国家の保全が尊重されるように祈ります。国際社会は、このロシアの侵略を堂々と非難すべきです。しかしながら、チベットの経験を鑑みるならば、すでにウクライナの人々は権利と自由の回復を願う長い道のりを歩み始めているのかも知れません。

チベット東部地方カム・ドラクゴ(ダンゴ)地域。ここに45台の巨大マニ車が設置されていたが、昨年12月、中国当局に破壊された
「ウクライナ東方カトリック教会のキ-フ=ハールィチ(キエフ=ハリチ)高位大司教及びウクライナ大使館は、ロシアが聖ソフィア大聖堂の空爆を計画しているとの情報を教皇庁から得ていた」という最近のニュースをご存じですか?

チベットでは中国の工作員が、弥勒菩薩像や僧院・尼僧院を徹底的に破壊し、神聖なマニ車を冒涜し、仏教徒や一般のチベット人に対して恐ろしい暴力行為に及んでいます。

上の赤い円は、高さ約30メートルの仏像と寺院が破壊された場所。下の円は、同一地域にある僧院管理下の仏教学校が取り壊された場所。
2021年10月、チベット東部地方カム・ドラクゴ(ダンゴ)地域のゲデン・ナムテン仏教学校が強制的に破壊された。
ロシアによるウクライナの文化的破壊行為と、チベットにおいて現在も続くチベット文化に対する武力行使との類似点を見出すことはできますか?

最近、習近平がチベットで毛沢東の文化大革命さながらの状況を再現しているのを、私たちは目の当たりにしています。しかし、こうしたニュースが報じられることはありません。なぜならば、中国政府は厳重な監視システムによって国外との通信を遮断し、国内メディアを完全に管理下においているためです。また、国際社会が、中国の残虐行為をある程度受け入れてしまったことも一因であると思われます。中国政府による破壊と冒涜行為は、もはや常態化しています。

昨年12月、中国政府は、チベット人の寄付で設置した高さ約30メートルの仏像と高さ約9メートルの阿弥陀仏像を破壊しました。さらに中国政府は、チベットの伝統的な 巨大マニ車45台のほか、仏教学校を次々と破壊しています。
また今年2月には、チベット東部カム・ドラクゴ(ダンゴ)地域で、チベット人が第二の仏陀として尊崇する グル・リンポチェの巨像を破壊しました。

チベット人の若手人気歌手ツェワン・ノルブは、ラサで 焼身自殺しました。チベットの宗教、歴史及び文化に関する数多くの書籍を著した有識者であり僧侶のゴ・シェラブ・ギャツォ師は、中国当局によって 逮捕・収監禁され、 健康状態が危ぶまれています。

中国当局に逮捕される以前のゴ・シェラブ・ギャツォ師。
チベット人アーティスト・歌手のツェワン・ノルブ。

中国政府の政策が、チベット人に文化や宗教的なアイデンティティを想起させたり、それらを強固にしたりするようなすべてのものを破壊するという方針であることは今や、公然の秘密となっています。

ウクライナでは、キリスト教の史跡やキリスト教徒らが標的にされていると聞きました。これは本当によくないことです。中国では、キリスト教の司教たちは中国政府によって強制失踪させられ、「愛国心の強い」カトリック教会は、中国政府による信仰生活の弾圧から逃れるため 「地下」教会の活動を活性化しています。中国は、ダライ・ラマとパンチェン・ラマ(後者は中国政府により拉致されたまま)の転生を「認可」する権限を不当に主張しているのと同様に、カトリック司教を任命する権限があると主張しているのです。

宗教は、私たちの文化の中心であり、ウクライナもチベットと同じような境遇にあるように見受けられます。ウクライナのアイデンティティを壊滅させるために、教会やその他の聖地が標的にされないよう祈るばかりです。

チベット民族平和隆起日を記念し、3月12日、東京都内でイベントが開催された。
中国はチベットとの戦いで勝利を収めたのでしょうか?

答えは、完全に「ノー」です。中国共産党指導部が、チベットに対して敵意を抱くのは、チベットは中国に屈服したことは一度もなく、これからも決して屈することはないからです。70年以上にわたる侵略、弾圧及び暴力をもってしても、中国は、チベット人とチベットを完全に征服することはできないのです。中国共産党指導部は、チベットでは誰も中国共産党に敬意を払うことはなく従わないばかりか、中国政府による発言を信用していないことを認識しています。

チベット人は、仏教の高僧、特に高僧の転生を崇敬しその教えを守ります。このことを知った中国政府は、偽者の高僧を据えて、中国共産党のプロパガンダの代弁者として利用しているのです。中国共産党は、チベット人に対し、替え玉の高僧にひれ伏し、崇拝するよう強制しています。パンチェン・ラマのケースは、冒涜的な政策の典型的な実例で、中国当局が任命した偽の高僧を崇拝して平伏させ、その教えを授かることを強制されるというものです。しかしながら、チベット人は心の中では、決して中国政府による言動を受け入れていません。中国政府はこのことに気づいており、激怒しているのです。

2022年3月12日、在東京中国大使館の前で抗議するチベット人と支援者たち。
3月12日に東京都内で行われたデモ行進の様子

土着宗教であるボン教とインド発祥の仏教こそが、私たちをチベット人として成すものです。中国共産党は、私たちのことを「分離主義者」だと主張していますが、実際には、非常に多くの漢民族の中国人がチベットに来て心安らかに仏教を学んでいるのです。歴史的にチベット仏教は、漢民族、モンゴル、満州のさまざまな王朝に行き渡り、平和維持のために重要な役割を果たしておりチベットは常に平和を求め続けてきたのです。今日、中国には2億4000万人以上の仏教徒がおり、彼らはダライ・ラマ法王の言葉や教えを尊重し、支持しています。

ダライ・ラマ法王が提唱する『中道のアプローチ』は、私たちが分離主義者ではないという証拠です。チベット人は、中国人やその他の少数民族と生活様式や土地等を共有して暮らすことに異論はないことを示しています。私たちは、隣人と平和に暮らす用意ができています。ただ、私たちは真の自治と、チベットの言語、文化、宗教を実践する自由を望んでいるのです。

中国政府は、『中道のアプローチ』の文書を中国国内で公開していません。その内容を公開することで、これまでの中国共産党によるチベットに関する虚偽を露呈することになる危険性を中国政府が認識しているのかも知れません。中国共産党指導部は、中国人とチベット人との間に誤解を生じさせています。彼らは、仏教そして、ダライ・ラマ法王が提唱する「中道のアプローチ」が、中国とチベットを結び付けることを恐れているのです。

つまり、真の分離主義者は中国共産党指導部であり、チベット人ではないのです。

仮にあなたが中国で、誰かに「チベットの『中道のアプローチ』を知っていますか」と尋ねるとします。その答えは、「知らない」でしょう。中国共産党指導部は、中国国民にチベットの『中道のアプローチ』を目にしてほしくないのです。『中道のアプローチ』の文書によって、中国共産党指導部こそが実は中国憲法に違反していることが明らかになってしまうため、中国国民にひた隠しにしています。

たとえ何が起ころうとも、どんなに暴力に耐えなければならないとしても、私たちはチベットの宗教、言語及び生活様式を守り、実践するために苦闘し続けます。我々は、平和と非暴力への道を決してあきらめはしません。

3月12日に行われたデモ行進の様子。写真は東京・浅草。
2020年、米国政府はチベット人権法を可し、チベットとチベット人への強い支持を表明しました。そして今米国は、ウクライナに侵攻したロシアを制裁するために、迅速に対応しています。なぜ米国政府は、ウクライナ侵攻に対しては迅速に対応したのに、チベットに関して声を上げるのにこれほどの時間を要したのでしょうか?

1970年代初頭、当時のリチャード・M・ニクソン米国大統領は、毛沢東と共産主義者の関心を引こうとしていました。その後の米国の政策は、中国がやがて国際規範に従うように変化することを期待しつつ中国と関わっていく、というものでした。

しかしながら、過去の経験や出来事は、米国による対中宥和政策が逆効果だったことを明らかにしています。中国が市民社会と民主主義の価値観を非難するようにつけあがらせただけでした。
米国は、平和と正義のためのチベット人民による闘いの重要性を認識しています。我々の闘いは、残忍な独裁政権と戦うすべての人々を鼓舞するものと見なされています。だからこそ米国は、2020年チベット政策支援法を採択し、私たちの平和と正義のための闘い、そして希望を生かし続けるための、政治的・財政的支援を約束したのです。

米国政府は過去の失敗から学び、今回のロシアによるウクライナ侵攻に対して素早く対応しています。ヨーロッパの中心部に第二のチベットができることを望んではいないのです。そうなれば世界平和を危険に晒すことになるからです。

中国によるチベット侵略は、東南アジア地域全体を不安定で危険なものにしました。ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの覇権を先導し、ヨーロッパ諸国全体を脅威に晒すことでしょう。民主主義の価値観や国際規範は過去の遺物となってしまいます。

ロシアがウクライナに侵攻する直前の2022年2月4日、ロシア政府と中国政府は、それぞれの小さな隣国であるウクライナと台湾における領土計画を支援する協定を締結したことが報じられています。この侵略行為に国際社会はどう対応すべきでしょうか?

戦争と難民に関するすべての問題は、主に独裁政権の傲慢さと強情さに起因しています。独裁者は、人々の命など気にも留めず、どれだけ安全に権力にしがみつくことができるかということにしか関心がありません。ウラジミール・プーチンと習近平は、人類の世界平和にとって脅威です。プーチンは、ロシアとウクライナ国民の命を、個人的な栄誉のために危険に晒しているのです。

そうです、ロシアによるウクライナ侵攻と、台湾に対抗して同様の作戦行動を執ろうとする中国の策略との間には、直接的な関連が見出せます。ウクライナ侵攻に対する国際社会の沈黙や無関心は、間違いなく習近平はつけ上がり、台湾を侵攻するでしょう。そうなればインド太平洋地域は重武装化され、危険地帯となります。

1950年代に中国がチベットを侵略した際、近隣諸国や国際社会は、自分たちには危害は及ばないと考え、沈黙したままでした。ところが今日、ネパール、インド、ブータンとチベットとの国境付近一帯は非常に不安定で危険な状況に陥っています。

それゆえに、我々はロシアによるウクライナ侵攻という事実を真剣に受け止め、プーチンが自身の欲望と傲慢さを満足させるために始めたこの戦争を非難しなければなりません。ロシアの人々でさえこの戦争に反対していることに注目すべきです。

3月10日チベット民族平和隆起記念日に講演する中央チベット政権ペンパ・ツェリン主席大臣(インド、ダラムサラ)。
中央チベット政権からウクライナ国民に対して何か特別なメッセージはありますか?

世界各国のチベット人が、ロシアによる残忍なウクライナ侵攻行為を非難する抗議活動に参加しています。侵略を経験し、自由を失った国民として、我々チベット人はウクライナ国民の感情を十分に理解できます。私たちは、ウクライナの人々と共にあります。

インドに拠点を置く中央チベット政権は、声明を発表し、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻は、ウクライナの主権を侵害だけでなく、国際法規、外交及び良識に反する行為であるとしています。
国際社会は、ロシアによる侵略行為を最も強い態度で糾弾し、ロシアがウクライナの人々に更なる苦痛と苦悩を与えるのを阻止すべく、努力すべきです。

さらに声明では、「チベット人にとって、今回の侵略行為は、1950年代の中国による残忍な軍事占領を彷彿とさせます。民主主義と平和共存のこの時代において、斯様な侵略行為を目の当たりにするのは、衝撃的であり痛ましいことです。それゆえ、チベット人は、ウクライナと連帯し、この苦しみが速やかに終焉を迎えるよう祈りを捧げます。」と表明しています。
我々は、プーチンに対し、この戦争と人類社会に対する凶悪な犯罪を早急に止めるよう要請します。これは、市民社会と民主主義に対する攻撃です。

オリジナル記事


(翻訳:仁恕)