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『入菩薩行論』法話会 初日

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2022年7月28日
インド、ラダック地方レー

今朝、ダライ・ラマ法王は、シワツェルの公邸から、法話会会場の一番奥にある天蓋付きのステージまで、ゴルフカートで移動された。会場にはシャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』の解説の伝授を授かるために、4万5千人を超える人々が集まったと推定される。

ラダック地方、レーでの法話会初日の到着時に、会場のステージ前方から4万5千人を超える聴衆に手を振られるダライ・ラマ法王。2021年7月28日、インド、ラダック地方レー(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

法王のお姿を一目見ようと、道の両側には沢山の人が詰めかけ、法王が手を振られると、多くの人が喜びの涙を流した。法座に着かれる前に法王は、ステージの正面で立ち止まり聴衆全員に挨拶された。

法王はまず、法王が到着した時に、心と、心に伴って派生する心の働き(心所しんじょ)について問答していた若い学生たちのチームを賞讃され、仏教を学ぶには、ナーランダー僧院の伝統に由来する、論理と根拠を用いて教えを探求する方法が最も効果的であると述べられた。この論理的に考える姿勢こそが、科学者たちの関心を集めているのだ。

法王は聴衆に以下のように語りかけられた。
「やさしさと思いやりは幸福への鍵です。私たちは生まれた瞬間からお母さんのやさしさに包まれて人生を歩き始め、死を迎えるときでさえ、心温かい親類や友人に囲まれていれば、より快適で安らかな気持ちで死を迎えることができるでしょう。すなわち、人間は社会的な動物であり、他者に対して温かい心で接することができれば、幸せな人生を送ることができるはずです。チベットには “温かい心により幸福と成功に至る” という諺があります」

「また、“いわゆる敵と呼ばれる者は、あなたの最高の教師になることができる” とも言われています。チベット人は中国共産党の手によって、大きな苦難と不幸な状態に直面していますが、私はチベット人に憎しみや復讐心を抱かないようにと助言しています」

シワツェルでの法話会初日に、聴衆に説法をされるダライ・ラマ法王。2021年7月28日、インド、ラダック地方レー(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

「敵に仕返しをするつもりで負の感情を溜め込むと、幸せな人生を送ることはできません。それよりも、悪いことをした人に慈悲心を持つ方がずっといいのです。温かい心、許す心が幸せの根源だということを心に留めてください。どんな目的であれ、私は仏教の僧侶として、武力の行使を唱道することは決してしません」

「ラダックとチベットの人々は古来より非常に親密な関係にあります。ラダックからアルナーチャル・プラデーシュまでのヒマラヤ地域の人々により、仏教の文化的伝統を保持することができれば、仏教が世界的に繁栄することに大きく貢献できるでしょう」

「チベットの人々の勇気と精神は不屈であり、私に対して揺るぎない信仰と信頼を寄せてくれています。ヒマラヤ地方で仏教の文化的伝統を守り続けていくことは、自ずとチベットの人々を利益することになるでしょう。自由と尊厳のための私たちの闘いは、真実と正義に基づいており、非暴力を守り、害を為さないという意味の “アヒンサー(非暴力)” に依ることによって、最もよく達成できることでしょう。中国では仏教徒の兄弟姉妹の数が増えていますので、私はやがて事態が良い方向に変わると確信しています」

法王は、7世紀にチベットの第33代皇帝であるソンツェン・ガンポ王が、中国との密接な関係にもかかわらず、インドのデーヴァナーガリー文字のアルファベットを手本にチベット文字を作る選択をされたことに言及された。その結果、8世紀に、チベットのティソン・デツェン王の招きでインドの導師シャーンタラクシタ(寂護)がチベットを訪問された際、インドの仏教典籍をチベット語に翻訳するようチベット人に奨められ、これによってチベット人はパーリ語やサンスクリット語に頼らず、自分たちの言語で仏教を学ぶことができるようになったのだ。

法話会初日の、シワツェル法話会場ステージの光景。2021年7月28日、インド、ラダック地方レー(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

その後、偉大な導師であるシャーンタラクシタは、弟子のアチャリヤ・カマラシーラ(師・蓮華戒)をチベットに招聘するようティソン・デツェン王に進言されたが、その目的は、中国の僧侶が主張する座禅のみで頓悟とんごできるとする見解と比較して、ナーランダー僧院の伝統に従って仏教を論証的に学ぶことの利点について、彼に議論させることであった。この論争の結果、ティソン・デツェン王は、カマラシーラの見解の方がチベット人にとってより適切であると判断されたのだ。

法王は、300巻を超える “カンギュル(経典)” と “テンギュル(論書)” は宗教、哲学、認識論、科学などの幅広いトピックを扱っており、今日ではチベット語がそれらの理念を研究するための最も正確な言語になっていると指摘された。

最近、『インド仏教の古典における科学と哲学』シリーズの2つの巻が中国語に翻訳されて出版されたが、この2冊は “カンギュル” と “テンギュル” を典拠とする資料を含んでいる。それを読んだ中国の一部の大学の教授たちは、チベット仏教は科学的で理に叶った手法を用いており、そのことはチベット仏教がナーランダー僧院の伝統を明確に継承していることを示している、と認めるようになった。

そして法王は、次のように話を続けられた。
「1960年代、私はヒマーチャル・プラデーシュ州チャンバ地区のチベット難民を訪ねました。その中には、道路建設の労働者として働いている学僧が大勢いました。彼らは僧衣さえ持っていない状態でしたが、特別な状況にあるため、私たちはその場で “月に2回行う僧団の懺悔の儀式(布薩ふさつ)” を行い、その後、仏教哲学についての問答をしました。私は、困難に立ち向かう彼らの姿を目の当たりにして大変な感動を覚えました」

法話会初日に説法をされるダライ・ラマ法王。2021年7月28日、インド、ラダック地方レー(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

「最終的に私たちは、インド政府やNGO、慈善団体の支援により、南インドに学びの拠点である伝統的な僧院を再建することができました」

法王は、ラダックの人々が仏典の勉強を通じて、奥深い仏教の文化的伝統を護持することの重要性を強調され、論書を綿密に学んだことにより、ゲシェ・ラランパ(仏教博士)の学位を取得するに至ったご自身の経験を引き合いに出された。そして律蔵の中の、阿羅漢サカラ尊者の次の偈頌を引用された。

勉学と瞑想を通して
人生を有意義なものにしなければならない
ただサフラン色の衣を着ることで
満足してはならない
無明の闇を晴らす、最もすぐれた灯火として知られている(同33偈)

法王は、僧俗を問わず、仏陀のお言葉からなる “経・律・論” の三蔵を学び、“戒・定・慧” の三学の修行に励むようにと促された。そして、やみくもな信仰ではなく、論理と根拠に依拠することの大切さを繰り返された。

法話会初日が終了し、聴衆に手を振りながら公邸に戻られるダライ・ラマ法王。2021年7月28日、インド、ラダック地方レー(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)

法王は、師・シャーンティデーヴァの生涯について簡単に説明された後、『入菩薩行論』を読み始められた。そして時折詳しい解説を加えながら、第1章の終わりまで読み進むと、「今日はここまでにしましょう」と告げられた。明日はこの続きを読まれる予定である。