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チベット人は、自分たちの言葉を守るために戦っている

2022年9月23日
スタッフ記者

カリフォルニアのペマ・オセール・リン・リトリートセンターにあるチベットの祈りの旗の未公開画像。  Godong/UNIVERSAL IMAGES GROUP VIA GETTY IMAGES

カリフォルニアのペマ・オセール・リン・リトリートセンターにあるチベットの祈りの旗の未公開画像。 Godong/UNIVERSAL IMAGES GROUP VIA GETTY IMAGES

外交政策 - ケルサン・ドルマ

民族や国家のアイデンティティの表明である言語権(自ら望む言語を使うことができる権利)は、チベット人の人権擁護団体にとって長い間焦点となってきた。近年、中国共産党(CCP)が、支配下にあるチベット人が言語権を行使できないように制限する取り組みを強化しているため、本件はより重要な議題となっている。この言語制限は、民族浄化や少数民族弾圧の長い動向の一部であり、チベット人が言語を通じて自分たちの遺産やアイデンティティにアクセスできないようにするのが目的だ。

2018年、中国の裁判所は、中国の法律に基づき、「チベット人がチベット語を使用する権利」を主張したとして、チベット人のタシ・ワンチュク氏に5年の禁固刑を言い渡した。2019年には、別のチベット人男性ツェリン・ドルジェ氏が、兄と電話でチベット語の重要性について話し合ったため、いわゆる再教育施設に1カ月間拘束された(中国当局はこれを政治犯罪と定義している)。

チベットの精神的指導者であるダライ・ラマ法王は、亡命中ながら、この問題を重視している。チベットの精神的指導者であるダライ・ラマ法王は、チベット語が大いに役立つ言語とは言えないとしながらも、チベット人に自国語を勉強するように勧めている。「チベット語は私たちの母国語であり、私たちが守らないといけない」。

現在ラサでは、チベット人教師が生徒にチベット語で教えることはほとんど禁止されており、チベット人学生は(チベット語コースを除く)ほぼ全ての科目を中国語で教えられている。中国共産党のイデオロギーもカリキュラムに押し込まれている。チベット人は、自分たちの遺産を正しく評価し保存する教育の代わりに、押し付けられた教育カリキュラムの中で、自分たちの存在そのものを否定する形に直面している。

このようにディアスポラ(四散した民族)には言語を絶やさない責任があるものの、少数単位のコミュニティでのプレッシャーは大きいものがある。チベット難民の識字率は中国占領下のチベット人よりも高くインドのチベット人学校では毎年数千人のチベット人若年層を教育している。インドに住むチベット難民の人口は約10万人と最も多く、インド在住のチベット人の子どもたちは、他の地域に暮らすディアスポラ社会の人々に比べ、はるかに有利な条件下でチベット教育を享受できている。

チベット人の互助会もしくは協力会は、祖国から離れた場所にあって「我が家」である。 いくつかの協力会では、地域社会との関わりを深めるための拠点として、強固なコミュニティセンターを持っている。北米には30以上のチベット人の協力会が存在し、そのうち約24はチベットの週末学校としての機能も併せ持っている。また、これらの協力会は、誕生日会、卒業式、チャリティーコンサートなどの共通の場としても機能している。週末学校では、ボランティアの教育者がチベット人の若者にチベット語、文化、舞台芸術を教えている。語学学校で教えるカリキュラムの多くは、中央チベット政権の文部省によって策定され、中央チベット政権は、チベット人協会一般的なチベット人を支援するために、いくつかの年次イベントを開催している。制度的に方向性が明確でなくても、ディアスポラのチベット人コミュニティにおける言語保存には特に妨げにはならない。

しかし、常設のスペースがないため、本物の教室で教える機会や生徒の学習能力が著しく損なわれている。約14のチベット人協力会が教室のレンタルに頼っているのは、それらの協力会がコミュニティセンターを所有していないためで、比較的小規模で貧しいコミュニティでは物理的なスペースを確保できないケースもある。約160人のチベット人が暮らすフィラデルフィアの協力会(TAP)がそうだ。TAPは以前、カルムイク同胞団(ペンシルベニア州フィラデルフィアの仏教寺院)のコミュニティセンターを通じてスペースを借りていたが、そのセンターはCOVID-19の大流行の際に売却された。TAPのコミュニティはスペースを借りることができるが、今ではたまにしか借りる余裕がない。

「物理的な空間がなければ、子どもたちはチベット語でコミュニケーションをとることができません」と、TAPの秘書であるプンツォク・リラギャルは言う。「チベットの伝統的な踊りを教えるのは難しいし、物理的な空間がなければ、生徒の中の係わり合いもない。」と。

リラギャル氏によると、フィラデルフィアのチベット人は、建設、家事、看護などの労働者階級が多く、成人人口のうち米国の大卒者はわずか10%ほどしかいないという。TAPはここ数年、常設のコミュニティ・センターを建設するための資金集めという大変な課題を自らに課してきた。物理的なスペースがないため、TAPは週末の学校をZoomビデオ通話に頼ってきたが、これは体育とは比べ物にならず、文化教育を受けるためにこの学校に依存しているチベットの子どもたちに痛手となっている。

ディアスポラにおけるチベット語保存の他の課題について尋ねると、リラギャル氏は次のように答えた。「若い世代はアメリカ人の生徒と一緒に育ち、学校に通っているので、チベットの文化や伝統がおろそかになっています。もうひとつは、ほとんどの親がフルタイムで働いているため、子供と一緒に過ごす時間やチベット語を教える時間が十分にとれないことです。」

チベット人の他の移民コミュニティでも、手頃で利用しやすい教材の面で同じ問題に直面している。現在のチベット人は、チベット語の児童書がまだ出始めたばかりの時期にアメリカで育っており、チベット系アメリカ人の標準的な教科書もないという状況にある。そして、チベット人協力会の維持費は、一部のチベット系アメリカ人にとって法外な障壁となり、同時に協力会の費用をカバーするのに十分な額とはならないこともある。

さらに、チベット系アメリカ人の若者は、チベット語の実用性・採算性、そして中国共産党によるチベット語の継続的な侵食によってかえって強められた義務感の間で特有の葛藤を抱えている。その義務感は多くのチベット人青年の良心にのしかかっているが、チベット人若年層は現実問題としてまだ意識的努力なしに自然にチベット語をマスターすることができる状況にはない。

10代から20代前半のチベット人を対象にした小規模な調査では、参加者全員が、最初は純粋な選択ではなく、家族の義務としてチベットの学校に通い始めたと答えている。これは、チベット人コミュニティの中で広く、しかし静かに抱かれている感情である。海外に四散した年長者や若者を含む多くのチベット人は言語の保存を強く望んでいるものの、チベットから遠く離れた国で暮らす状況の中で、その願いを実現することは簡単なことではない。

調査参加者全員が、アメリカでのチベット語学習は困難であると回答している。21歳のチベット人、クンサン・ドルジェさんは、「幼少期、アメリカのチベット人の若者は、チベット文化の保存に危機感を抱いていなかった」と言う。「チベット語を学ぶことを文化的に必要なことではなく、むしろ雑用として見ているため、教師が学校の授業という範囲を超えて学び、実践する意欲を生徒に持たせることは困難でした。」

チベット系アメリカ人の若者は、英語ベースの学校と週1回のチベット語の学校に時間を割いて通っている。時間がないため、これらの若者は、ある言語と別の言語を勉強する意味や効果を天秤にかけなければならない。一方の言語は米国で主流の文化、政治、ビジネスの言語であり、もう一方の言語は家庭の外ではほとんど聞かれない言語である。調査参加者は全員、チベット語のスキルを主に家族、特に英会話に不慣れな年配のチベット人親族と話すために使っている。

しかし、アメリカでの仕事の大半はチベット語の能力を必要としないため、チベット人の若者は英語を優先させる傾向にある。今回の調査では、多くの参加者が週末に行われる学校教育に不満を抱いていることが分かった。英語を母国語とする人々には、規則正しい公立学校と英語能力を求める社会という恵まれた環境がある一方で、チベット人学習者はチベット式の教育と向き合わねばならず、しばしば理想的でない環境に順応しなければならない。

中国政府によるチベット語弾圧政治は、チベット人学生のやる気を失わせる具体的な圧力となっている。23歳のチベット系アメリカ人テンジン・ロブガ・チョンヘルさんが表現したように、調査参加者の多くは、チベットにおける言語権の抑圧のために、チベット語を学ぶことに強いプレッシャーを感じていると痛烈に指摘している。「海外で暮らす一部のチベット人は、本土で我々の言語がいかに抑圧されているかを知っているため、母語を学ぶことに特別なプレッシャーや罪悪感を感じているかもしれません。」多くのチベット人の若者は、年長者がチベットとチベットの権利の喪失を嘆く家庭で育ってきた。チベット系アメリカ人の若者のチベット語能力は望めないが、ニューヨークやミネアポリスなどのアメリカの都市には、活気あるチベット人コミュニティが存在する。チベット人の若者は完璧なチベット語を話すことに苦労しているかもしれないが、チベット人コミュニティは定期的に互いに交流し、毎年文化的政治的な活動を行っている。

海外に四散したチベット人として生きていくことは大変な苦労であるものの、これはコミュニティの強さと気概の物語である。アンケート参加者のほぼ全員が、人生の後半になってチベット語を学ぶことの真価を知った、と答えている。チベット文化保存の取り組みは完璧ではないが、チベットの運動は他の同じような境遇のグループを刺激する。香港の活動家ジェフリー・ンゴ氏は、「香港のアイデンティティを保存することが目的なら、政治よりも文化の保存の方がはるかに重要」と述べている。

ボランティアの教師やチベット人協力会の指導者たちは、わずかな報酬、あるいは無報酬で仕事をしている。彼らの多くにとって、その努力は愛の労働であり、彼らの民族とチベットへの愛である。週末チベット学校に通うチベット人の若者の多くは、チベットに足を踏み入れたことがないかもしれない。チベットに足を踏み入れたことのない若者たちは、物語やYouTubeの動画を通してチベットを体験することになる。チベット語学校は、このようなチベットの若者たちにチベット語を学ぶ機会を与え、その瞬間、彼らは触れることのできない貴重な領域に足を踏み入れることになるのだ。

レポートの原文はこちらから読めます。

オリジナル記事

(翻訳:石田 一規)

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