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中国は経済でチベット人を制したが、心まではまだ掴めない

2001年12月1日
ニューヨークタイムズ ラサ

今年初めに役人が2つの大ポスターを掲げたが、これは中国が望むチベットを描いたものだった。

1つには、チベットの民族衣装を着た女性が、嬉しそうに中国人兵士に穀物を分けている様子が描かれていた。「同じ空気を呼吸し、運命を共有し、心と心が結びついた」と、チベット語と中国語のスローガンが書かれていた。

もう1つには、中国共産党の3巨人、毛沢東と鄧小平、江沢民が、チベット仏教の最高聖地ポタラ宮殿の前に立つ姿が描かれていた。

このような中国側の理想は、この掲示板が掲げられた小さな広場で、現実と出会うことになる。ここには仕事がないチベットの少年たちが群れて、頭上のスローガンなど気にもとめず、安い自家製ビールを飲んで酔っ払っているのだ。

「彼らがチベットを乗っ取ったんだ」2つ目のポスターを指差して、少年の一人が旅行者に語ったが、これは、1951年の占領以来この山岳国境地帯の人々に対して中国がふるってきた支配力が、中国政府が主張するほど強固ではないことを示す一例である。

中国政府は、亡命したチベットの精神的指導者で、中国側指導者が非難中傷しているダライ・ラマと和解交渉することは論外としながらも、この地域の経済発展と融和を急速に促進することでチベット人の心を掴もうと努力してきた。

チベット人も、他国人同様経済的繁栄は歓迎している。しかし、中国政府の政策は深刻な問題に突き当たっている。チベット人の文化と自治権を侵害するものだとして、多くのチベット人やその支援者から懐疑の目で見られているのである。

中国側は、チベット支配に対する世界中からの非難に、しばしば当惑しているようだ。彼等の主張によれば、チベットは長年にわたって中国領土の不可分な一部だった。国際的な批判は、外国の「分断主義者」や敵の策謀だとして非難し、亡命中のダライ・ラマもその「敵」に含めている。

少なくとも最近の中国側の主張は、「自分たちは、ダライ・ラマを公然と崇拝しない限り、また僧院が規則を守る限りは、礼拝の自由を認めてきたではないか。封建的暗黒時代に閉ざされていた地域に道路を建設し、学校を作ったではないか」というものである。

中国の指導者たちは、平均的チベット人の福祉はまもなく必ず増進するはずだと語っている。同地域に対してふんだんに経済投資しているし、氷に閉ざされた山岳地帯の峠に巨額の費用を費やして外界に至る初の鉄道敷設も進めているからというのである。

急速な開発がチベット人の忠誠心を固めさせるかどうかは未知数だが、この政策はそれ自体大きな問題に行き当たっている。

中国の指導者たちは、この数年でチベット社会が劇的に向上したと誇り、チベットの平均収入を今後10年で中国の国内平均収入の水準まで引き上げると豪語している。

しかし中国内外の専門家たちは、外部からの移住者や役人、都市労働者のような少数のエリートと、依然として牧羊と農耕に従事する260万チベット自治区居住者の80パーセント以上の人々との間に、危険なほどの格差が開いてきていることを指摘している。

また中国の指導者たちは、チベットにおける極端な貧困はほぼ一掃されたと最近宣言した。だが、この宣言はあいまいな統計を根拠とするもので、年収72ドルという極貧レベルに貧困ラインを設定した上でのものである。

チベット人と外国人医師による栄養調査で、広範囲の子供たちに栄養失調を示す発育障害が見受けられたが、これは、非常に多くの牧羊者がいまだに孤立生活をしていて野菜や果物をほとんど摂取しないことも一因である。

政府の統計によれば、チベットの子供たちのうち中学校に入学する者でもわずか44パーセントにすぎない。経済ブームを享受するのに役立つような高等教育を受けられるチベット人はごく少数である。

多くのチベット人が政府の開発計画で職を得たが、高度な専門技術を身に付けた者はほとんどないため、肉体労働者として就労しているにすぎない。

観光ブームは予想にたがわず雇用機会を増やしたが、経済発展の中でチベット人たちは、なかなか足場を確保することができないでいる。

今のところ都市部の小規模商店などは、隣接する四川省からの移住者が経営している場合が多い。急成長しているチベットの経済状況が、近隣地域から出稼ぎや永住者として何十万人もの中国人を引き寄せている。

ラサ生まれ19歳のアルンバンジャは、小学校には2年間通っただけだがテレビで片言の中国語を覚えた。しばらくはスーパーマーケットで働いていたが、四川省出身の経営者が、同じ中国人の出稼ぎ労働者を雇えるようになったため彼を解雇してしまった。

「よそ者がわれわれの仕事を奪っている。いい仕事に就くには、中国語を話せるだけでなく読み書きができなければならないのです」と彼は嘆いた。

彼は最後の手段として、観光客向けの仏画を描く希望者の多い仕事で7年契約の徒弟になった。

ほとんどのチベット人が遊牧生活をしていて、どの家庭も息子の一人を僧侶にしていた頃の、孤立した神政国家の時代にもどるべきだと主張する者はいない。チベットの宗教と文化は変化しているし、若い世代が教育と出世の機会を得るにつれて、変化はますます進むだろう。

しかし中国に批判的な人々は、中国政府が進める開発計画と、それによって中国人「専門家」の流入が続くことによって、チベット人が独自の生き方をして、深い霊性と自然との絆を保ち続けることはできなくなるだろうとしている。

優秀なチベット人を組織の中で厚遇し、伝統的な生活様式との絆を弱めさせるという巧妙な策をとっている中国政府は、毎年数百人の優秀な学生を中国の他地方に送っている。彼らはそこで高校に通い、大学に進む場合も多い。

結果として、大勢の有能で意欲のあるチベット人が故郷のチベットで役人になった。中国人が外国人に対して指摘するように、地域や自治区職員の大多数はチベット人によって占められているのだが、最大の権力を握る党書記は、常に外部から中国政府は任命するのである。

28歳のチライ・ダジは中国政府の理想を体現している。ラサの北200マイルのナクチュ地方で貧しい遊牧民の子として育った彼は、初等学校で優秀な成績を収め、1987年にチベットで言う「内地」の中学校に進学する機会を得た。

「行けて嬉しかったです。」と彼は語った。彼は沿岸部天津市の学校に4年間通い、その後東部の江西省南昌の専門学校で4年間学んだ。

現在チライ氏は貧困対策担当の中堅職員として、孤立生活を営む遊牧民家族の収入を向上させる仕事をしている。短髪と西洋風の衣服がいかにも「近代的」チベット人だが、彼は、村の家族やチベット文化と疎遠になっているわけではないと言う。

「内地の学校に行く者のほとんどはあまり宗教心が強くありません。でも私の両親は、私が伝統を捨ててしまったとか、前より疎遠になったなどと感じていませんよ」と彼は語った。

「多くのチベット人はとても開放的なのです。また外部の人が考えているほど頑固でもありません」役人としての将来に明るい見通しをもっているチライ氏は今共産党の党員になる準備を進めている。

都市部に住むごく少数のチベット人の間では、生活様式や生活態度は大いに変化したが、チベット人の固有性は強固に残っている。

ラサの古いチベット人居住地にある神聖なジョカン寺院の周りには、過去5年間で新式のナイトクラブが急増したが、それらは折衷式とはいえチベット文化の根強さを反映している。

ランマクラブ(「宮廷芸能」という意味の名称である)として呼ばれるこれらの店は、中国人がもちこんだ西洋式ディスコや粗末なカラオケ酒場のようなものだ。

壁には宗教的シンボルを描いてチベットふうに飾り付けられている。色取り豊かなチベット式衣装を身に着けてディスコのきらめく照明に照らされた歌手たちは、古い民謡やチベットの流行歌だけでなく、中国語の流行歌も歌う。

クラブは学生や建設労働者、警官、経営者など、驚くほど多様なチベット人客を引付けている。非常に人気があるラサのランマクラブでは、ある土曜の夜にビデオ上映を行って、西洋式お祭り騒ぎやラップミュージックなどを見せていた。

だがチベット衣装を着た歌手たちがステージに登場すると、12年前に亡くなった崇敬の的パンチェン・ラマ10世の肖像がスクリーンに映し出された。数人の客がコンガに合わせて活発なチベット語の歌を唱和した。

「私は中国語を話しますが、歌はチベットの歌がいいです。ここに住んでいるのですから」と、警察学校生徒のミンドゥル・バルンは語った。

これらのクラブは娯楽の場であって政治論争の場ではないし、ここで生まれる新しい文化がチベットの政治にどのような意味をもつことになるのか予想することは難しい。 宗教について聞かれて、クラブで夜を過ごしにきた23歳の薬剤師ジルブンは答えた。「仏教信仰はチベット人であることの一部ですし、ダライ・ラマは外国にいても、ここチベットでは尊敬されるべきです」

「でもわれわれはここにいるし、彼は他所にいるのです。長い間離れて暮らさなければならないカップルのようなものです。『好きです』とは言うものの、離れていると難しいのです。現実味が薄れるような気がします」と彼は語った。

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