真実のレポート〜2008年3月の蜂起から現在までの拷問の実態〜(1/8) ICT作成/国連拷問禁止委員会提出資料

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2008年9月 The International Campaign for Tibet(ICT)

このレポートは、第41回 拷問禁止委員会会議において、中国における審議に向けて提出された第4回定期報告書である。ここには、2008年3月から9月までの間にチベット本土で行われた人権蹂躙の事実が記されている。

4. 精神的・心理的な虐待

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3月後半を通しての暴動が収まりはじめると、中国政府はチベット内、とりわけ暴動発生地域での「愛国キャンペーン」の実施の強化に着手しました。このキャンペーンは少なくとも1996年からチベット内の多くの地域で進められ、常に人々の激しい怒りをかっており、2008年チベット蜂起の初期の抗議デモの一つである青海省ディツァ僧院における3月10日の抗議は、このキャンペーンに対する反動で起こったものと見られています。

僧侶や尼僧たちは、デモに参加したという理由で拘束の対象になっているだけではなく、チベット仏教のリーダーであり、かつチベット人の代表である亡命チベット人・ダライ・ラマを公に非難するよう強いられるという嫌がらせと精神的な苦痛を毎日受けてます。

本格的な抗議の後に実施されている、このような政治キャンペーンの強化と並んで、治安部隊による寺院の厳重捜査(デモに参加・不参加を問わず)、ダライ・ラマの写真を所持していた僧侶や市民の逮捕(チベット自治区外のチベット人地区では写真は従来許可されていた)、各人が暴動に参加していたことを告白する文書に署名することの強制や、僧院の長に今後デモが起こらないことを約束させ、五星紅旗を僧院の屋根に掲げさせることへの同意の強制が行われました。

多くの場合、キャンペーンは各地での抗議前には除外されていた一般市民たちも対象に含むようになり、市民らはダライ・ラマを非難し、中国共産党への忠誠を誓うように要求されています。

武装警官や作業チームにダライ・ラマの写真を踏みにじられて悲嘆にくれる多数の僧院から報告がなされおり、甘粛省カンロチベット族自治州ルチュ県のシツァン・ガツェル僧院もその一つです。

チベット亡命政権によると、4月16日の早朝に武装警官が当僧院を強制捜査し、約28人の僧侶を拘束。武装警官はまた4月14日にカンロチベット族自治州チョネ(卓尼)県のチューペル・タシ・チューリン僧院でダライ・ラマの写真を破壊し、多数の僧侶を拘束したと報告されています。

似たようなケースとして、4月3日には軍がカンゼ(中国名:甘孜)から60キロのトンコル(中国名:東谷)僧院で抗議者たちに発砲し、少なくとも14人が犠牲になっています。
(ここも参照:ICT、2008年4月4日、<http://www.savetibet.org>「カンゼで8人のチベット人犠牲者:チベット抗議の新たな局面」)

これは「愛国教育」を施すために、官僚たちが僧院を訪問したことによる抗議だったようで、軍の発砲後、約20名の重傷者が武装隊に伴われて地元の病院に連行されています。病院の周りは軍に固められ、立ち入りは禁じられました。

インドのダラムサラに本部を置くチベット人権民主化センター(TCHRD)、によると、四川省カンゼ州カンゼ県のパンリ尼僧院では5月14日の抗議の前に55人の尼僧が会議を開き、「愛国教育」キャンペーンを拒絶する誓約をたて、こう述べました。

「ダライ・ラマを非難し、批判し、攻撃したり、ダライ・ラマを誹謗する公文書に署名するよりは死んだ方がましである、私達が信仰し、生きることのできる場所がないのなら、別の土地に行くか、あるいは死のう。中国政府が私達を殺すのなら、それに甘んじよう。悔いはない」(註6)

4月3日には、チベット自治区ジョムダ県のワラ僧院でも、愛国教育の強化に直面した僧侶達が官僚グループに「命に代えても」ダライ・ラマを中傷するつもりはないことを告げています。(註7)

文化大革命を彷彿とさせる「反体制の僧院や僧侶・尼僧を厳しく取り締まる対策(カンゼ・チベット族自治州政府ナンバー2からの指令)」布告の中では、署名を拒む僧侶・尼僧、あるいは政治教育の効き目がない僧侶・尼僧の個室を破壊し、その者たちを追放するように述べられています。
「寺院に戻った僧侶と尼僧のうち、外出の明確な理由を提出できない者、母国の団結に賛成・母国分裂に不賛成の立場を示すことの出来ない者は追放し、部屋を破壊する。」

地方政府から発せられた新しい対策には、「全体の1〜3割の僧侶・尼僧がかく乱に参加した」寺院を組織的に「法に従って封鎖、捜査し、容疑者を拘束し、隠し持っている禁制品は押収する」ように記されています。「全ての宗教的活動は一時的に停止され、受刑者は施設からの外出を禁じられ、適切に浄化・修正される。」

カンゼ文書はまた、上位ラマ僧及び宗教的人物の公開“修正”を強調しており、「態度がはっきりしない者・どっちつかずの者は厳しい警告を受けるだけではなく、寺院コミュニティ全体の前でなぜそのような態度を取っているのかについて詳しく説明し、またそれを文章化して保証せねばならず、その口頭の説明と保証文は新聞やテレビで繰り返し報道する」と述べています。

新しい対策はまた、転生ラマ僧は寺院内で起こっていることを外部の者に漏らしたり、デモに参加もしくはデモを容認した場合は、「転生系統の権利を剥奪され、法に従って厳しく罰せられる」可能性もあるとしています。


  • 註6:「中国、抗議したパンリ尼僧院の尼僧55人を逮捕」2008年5月17日 TCHRD <www.tchrd.org>
  • 註7:「中国、チベット全土に新たな「愛国教育」キャンペーンを開始」2008年4月24日 TCHRD <www.tchrd.org>