超党派国会議員グループ向けのダライ・ラマ法王のスピーチ

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2013年11月20日東京 (www.dalailama.com

この日、まず法王は一部の在日チベット人留学生と謁見された。法王は、数世紀にわたりチベット仏教の経典がいかにチベット民族の統合に寄与してきたかという点について解説された。チベット大蔵経はほぼ全てのチベット人から大切にされているが、ヒマラヤ山脈地方と中央アジアに住むチベット人以外の民族からも尊重されてきたのである。法王はその後、中国人グループと謁見し、1つの仏教経典の内容は科学、哲学、仏教のカテゴリーに分類できるというご自身の3分法を説明された。法王は、仏教の実践の目的は智慧を養い、無知を克服し、苦しみを滅却することであり 21世紀を生きる仏教徒はますます研鑽に励むべきだと述べられた。

落葉を照らす素晴らしい秋の日差しを浴びながら、法王は昼前に、日本の国会議員の超党派グループに向けたスピーチのために国会議事堂に自動車で赴かれた。到着された法王は、今回、法王を招聘した委員会の会長の山谷えり子参議院議員と国会の重鎮である平沼赳夫衆議院議員に迎えられた。2人の議員にエスコートされて法王が中に入られると、そこでは8政党に属する150人の国会議員と、出席できない議員の代理を務める50人の議員秘書が待ち受けていた。法王は大きな拍手で迎えられた。

山谷議員は歓迎の辞を述べて法王にスピーチを促された。法王は、自分は全ての人間は同じだと思っているので、スピーチに当たっては兄弟や姉妹に話すように語りたいと述べられた。

「尊敬するべき兄弟姉妹の皆さん。再びこの席に立てることを嬉しく思います。私を招聘し、この会の開催に尽力された全ての皆さんに深い感謝を捧げます。 皆さんの温かい友情と深い思いやりにお礼したく思います」、と述べられた後、法王は我々が直面する問題の多くは自分が作りだしたものであり、原因は人間同士の副次的な違いに囚われ過ぎていることにある。70億人の人間は誰もが幸せに生きたいと望んでおり、等しくこの望みを叶える権利を持っている。このように考えれば、 特定の集団が自分たち以外の集団を迫害するようなことは許されないと説明された。

「人類の歴史を通じ、私たちは人間を『彼ら』と『我々』に分ける傾向があり、そうした区別が常に争いに結びついてきました。人類を全体として考えれば、こうした区別にリアルな基盤はなく、私たちは誰もが『我々』に属しているのです。まったく違いがないわけわけではありません。だがそうした違いは私たち誰もが人類という1つの家族に属しており、故郷であるこのただ1つの青い惑星に住んでいるという事実に比べたら副次的です。私たちは平和で幸福な人類共同体の構築に向けて努力する必要があります」と、法王は述べられ、21世紀が平和の世紀になることを強く望まれた。

世界の人口増加は続き、気候変動の影響は深刻化し、自然災害が増えている。こうした問題は今後も続くことから、一致団結した対応が求められている。気候変動への対応を目的に開催されたコペンハーゲン・サミットが失望を誘う結果に終わったのは、あまりに多くの国の政府が世界全体の利益よりも自国の利益を重んじるせいだと法王は述べられた。こうした問題を解決する手段は話し合いしないことから、私たちには対話が求められており、若い世代には21世紀を対話の世紀とすることを考えて欲しいと述べられた。

「日本は最も近代化が進んだ国の1つでアジアの主要国でもありますが、平和に重点を置く宗教伝統がある国でもあります。皆さんが私と共に今以上に平和な世界の構築を目指されることを望みます。私はそのために様々な場所を訪問し、70億人の人類が1つの家族に属しているという考えを広める努力をしているのです。

ご覧の通り私は仏教の僧侶であり、宗教上の違いが紛争を巻き起こしていることに痛みを覚えます。ミャンマーでは仏教徒とイスラム教徒の間に紛争が起きているようです。とても悲しいことです。私は紛争地の仏教徒にお釈迦様の顔を思い出して争いを止めて欲しいとお願いしました。もしお釈迦様がミャンマーに居られたら、脅威に晒された状態にあるイスラム教徒を保護しようとされたに違いありません。

ダライ・ラマ法王は、 自分が注力中のもう一つの分野は宗教間の調和の推進であり、日本がこの分野で貢献することを期待していると述べられた。その後、法王は話題を変え、世界により大きな貢献をするべく、日本の学生は国際語である英語力を向上させていくことが重要だと述べられた。

「最後に申し上げたいことは、私は55年近くを亡命先で生きてきたチベット難民だということです。この55年間、非常に多くの人々が私たちに同情してご支援下さったことを感謝します。 2001年に亡命政権が政治指導者を選挙で選ぶようになってから私は半分引退した生活に入り、2011年の主席大臣選挙後、政治指導者の地位から完全に引退しました。さらに私はチベットの政治で世俗的役割を担ってきたダライ・ラマ制度を終焉に導きました。これはチベットの民主化推進における私のささやかな貢献の1つです。

ダライ・ラマ法王は、中国は依然として民族問題の危機的状況に直面しているように見受けられると述べられ、自分には平和的文化だと思われるチベット文化が置かれた現況を懸念していると述べられた。また、チベットには環境問題もある。チベットの環境は世界の気候に重要な役割を果たしており、ある中国人の環境学者はチベットを「第三の極」と呼んでいる。チベットの環境問題はチベット人だけの問題ではない。チベットを源流とする河川はチベット以外のアジア地域に住む数十億人の人々の生活に影響を与えるからだ。これは私が残りの生涯をかけて関心を抱き続ける問題である、とも法王は述べられた。

また次に、「中国の新指導陣はより実務的で現実主義者であるようだと多くの友人から聞いている。習近平主席は腐敗に対して断固たる姿勢を取っており、勇気と行動力を持った人物に見える。直近の全国人民大会では、農村地域の住民と貧しい労働者のニーズと懸念が指摘され、国際的な標準に合った司法制度に対する言及も行われた。中国の人々は勤勉で現実的だ。中国に住む中国人こそが将来に向けた希望である」、と述べられた。

質疑応答セッションでは1つの質問の時間しか残っていなかったが、チベットの焼身行為に関連した質問が出た。法王は、これは悲しむべき事態だと改めて述べられるとともに、法王の考察したところでは、これは人々が直面する極めて困難な状況に対する抗議の行動のように見受けられると述べられた。焼身行為に及んだ人々は抗議のためには命を投げ出しても良いと考えたのであり、決して酩酊状態でこうした行為に及んだわけでもないし、家庭内の問題から逃れることが目的でもないと述べた。法王は、彼らのために何もしてやれない自分がこうした行為を止めさせることは難しく、状況を詳細に調査し、これだけ多くの人がチベットでこうした行為に出ることを選ぶ理由を解明することが中国政府の役割だと法王は述べられた。自らの体に火を放った人の中には小さな子供を持つ若い母親が複数いたことに対してとりわけ悲しく感じると法王は繰り返された。

退場前に、立ち上がった法王は、演壇の横にチベット国旗が掲揚されていることに気づき、ある話がしたいと述べられた。1954年に法王が北京で毛沢東主席と行ったいくつかの会談の中で、毛主席は法王にチベットに国旗はあるかと尋ねた。法王が「はい、あります」、と答えると、毛主席は、「よろしい。中国国旗の横にそれを掲げなさい」、と言ったそうである。

このため、中国政府の強硬派がチベット国旗を「分離主義者」の象徴として批判する今でも、チベットが自国の国旗を持ち、それを掲揚することに対して毛主席から個人的な許可を得ていると法王は感じられるそうだ。

 (翻訳:吉田 明子)

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