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沖縄/ダライ・ラマ法王沖縄訪問

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2012/11/11〜12 沖縄/ダライ・ラマ法王沖縄訪問


2012年11月11〜12日

「沖縄を再び訪問することができ大変嬉しく思います。あなた方のこの美しい島を訪ねるのはこれで二度目です。地元の方たちと交流し、また沖縄の文化に触れられるのを楽しみにしています。」11月10日の夕方、那覇空港に降り立ったダライ・ラマ法王は地元の招聘委員会のメンバーにそう挨拶された。沖縄本島東部の海岸沿いを車で移動し、ホテルに到着した法王を沖縄の老若男女が出迎え、しきりに握手を求めた。

11日朝、法王は沖縄戦没者を慰霊する霊域内の魂魄の塔を訪ね、日本人とアメリカ人双方の犠牲者が眠る墓地で祈りを捧げられた。

その後法王は、平和を願い2004年に植樹された菩提樹がある沖縄菩提樹苑を訪れた。法王は2009年の11月4日にも同地に寄られ、聖なる木の傍らに平和祈願の苗木を植樹されている。その時法王が書かれた色紙には、『あらゆる事実を考察し、智恵と思いやりをもって取り組むならば、暴力に頼らずとも地球の全ての問題を解決することができます。この世界に平和と調和があまねく広まりますように祈念しています』とある。

今回の訪問では法王は次のようなメッセージを残された。『暴力で問題は解決できないということを過去の歴史は明確に物語っています。この21世紀、平和的対話のみが私たちに残された平和実現のため唯一の手段です。普遍的な利益を追究するためには、思いやりと勇気が必要とされています。』

集まった人たちに対して法王は、対話の重要性についてお話しされた。さらに、20世紀の沖縄戦を含む戦争によって失われた命は2億にのぼると推計する歴史学者がいるという事実を指摘された。

「過去の記憶に基づいて、私たちは21世紀を対話の世紀にする努力をしなくてはいけない。21世紀は平和の世紀であるべきだ。平和は祈りでは達成されない。平和を成就するのは行動だ。この目標を達成するためには、若い世代がもっと考え、努力しなければならない。」

短い時間ではあったが、法王はひめゆり平和祈念資料館にも立ち寄られ、地元女学校の生徒および職員が沖縄戦で経験した悲劇を語り継ぎ、世界平和を訴える展示をご覧になった。職員を含む240名の学徒隊のうち227名が戦没している。

同日午後、法王は沖縄県庁所在地である那覇にある沖縄県立武道館に到着された。5000人余りの人々が、法王の特別講演『困難を生き抜く力 未来を生きる青年に語る』のために集った。
講演に先立ち、地元のアーティストらによる二つの美しい沖縄の伝統舞踊が披露された。観客は複雑な装飾がほどこされた衣装と被り物を身につけた女性舞踏家の繊細な動きに心を奪われた。
講演の冒頭、法王はご自身の使命とされる人間のよい本質の奨励、そして宗教間の調和を促すことについてお話になった。もう一つの責務であった政治的役割からは2011年に退いたことにも言及された。

20世紀の科学技術の進歩は、経済をはじめ私たちの社会の多岐にわたって大きな発展をもたらした。物質的充足は容易に手に入るようになった。しかしそれによって人々に平穏な暮らしがもたらされたわけではない。現代社会にはストレス、不信そして孤独といったマイナス要素がある。軍事兵器の破壊力は大幅に強化されてきた。核兵器によってもたらされる自然環境への悪影響について考察することも重要だ。

「人類の智恵ゆえに、私たちの日常は紛争が起こる可能性といつも隣り合わせだ。利害や見解の相違によって争いが生じそうな場面に遭遇したなら、私たちは平和を導く方法を見つけなければならない。対話によってのみ成し遂げられることだ。」ステージを歩きながら法王はおっしゃった。

「平和は努力なくしては達成されない。」法王は若い世代の人たちに対し、21世紀を対話と平和の世紀にするために尽力する責務を担っていることを忘れないで欲しい、と助言した。わずか12年が費やされただけで、今世紀はまだあと88年残っている。過去から学ぶことは可能だが、将来を思い描き、幸福で平和な世界をどのように築いていくかを考えることがより重要だ、と法王はおっしゃった。そのためには未来への展望を持たなければいけない。そしてその方法は現実的であるべきだ。抱えている課題を一面的に捉えるのではなく、あらゆる方向から考察することが大切だ。効果的な分析をするには心の平静が不可欠だ。仏教で言う『分析的瞑想』だ。

さらに法王は、怒り、憎しみ、懐疑心そして恐怖心といったネガティブな感情を変化させ心の平静を得る方法を丁寧に説明された。それを一般的に広めるには、信仰を持つ者もまた持たない者も同様に尊重する、非宗教的な方法に依るのが最善だとも述べられた。

質疑応答の時間には会場の通路にたちまち長い列ができ、法王はそのうちの数名の質問について話しをされた。

科学技術によってこれまでになく個人同士が繋がっている現代における幸福追究についての質問を受け、法王は感覚的なレベルの幸福しか満たさない物質中心主義の生活は重要ではないという立場を示された。「真の幸福は、感覚を認知することによってではなく、心の訓練によってもたらされるものだ。

さらに法王は、世界各国の科学者らによる心の訓練に関する研究について説明され、心の訓練を通じて培われた感情が、自然に生じる感情に較べて確かで安定していることを強調された。そして最後に、感情に向き合う際、『心の地図』の理解が如何に重要であるかについて話をされ講演を終えられた。

11月12日午前、ダライ・ラマ法王は記者会見を行った。法王はまず、ご自身の二つの使命についてその要点を述べられた。人間のよい本質を奨励することに関連して、法王はメディアが持つ重要な役割、つまり、記事や見解を通じて一般の人たちを教育することについて話をされた。人生はお金が全てと思わせるようではいけない。『現代人間社会の癌』と法王が呼ぶ腐敗を導く欲望が世界中に蔓延してきていることは嘆かわしい、と意見を述べられた。

チベット内部で相次いで起きている焼身抗議についての質問に対し法王は、2011年以来ご自身は政治的責務から完全に退いているとしながらも、より大きな問題の表れである焼身抗議の原因を中国政府が調査することが重要だとの自らのお考えを示された。残念ながら中国政府はその努力をせず、常に楽な選択をしてきた。つまり、チベット内部の全ての問題をダライ・ラマ法王を含む亡命チベット人らが引き起こしてきたとして非難をし続けているのだ。そうすることで問題解決の一助になっているならそれで結構だ。しかし実情は違う。2008年のチベット騒乱後間もなく、温家宝総理は「この危機的状況はインドから始まった」と断言した。チベット側は直ちにそれに反応し、ダライ・ラマ法王とチベット亡命者の会話の全記録を含むあらゆる記録やファイルをくまなく調査するために中国政府の役人をダラムサラに招待した。彼らがそれに応ずることはなかった。ダライ・ラマ法王および亡命チベット人が焼身抗議を扇動していると中国当局が主張した際も同様に、法王は中国政府の官僚をダラムサラに招待し、調査を行うよう促している。

中国に関しては法王は次のように述べられた。中国の13億の人々は何が正しく、何が間違っているかを判断する能力をもっている。だから中国政府による検閲制度は倫理に反するものだ。中国の司法制度についても、国際的な基準に引き上げられるべきだと意見を述べられた。

最後に、中国、日本間の島を巡る論争について法王は次のように語った。「デリケートな状況だ。政治的な問題だ。私はこの島の所在も名前も知らない。しかし、横浜で記者会見をした後、私が島を日本名で呼び日本を擁護した、と中国のメディアによって報じられた。それは全くの誤りだ。中国には日本が、そして日本には中国が必要だ。それが現実でより重要なことだ。問題解決のためにあなた方は話し合わなくてはいけない。」

招聘委員会のメンバーと昼食を摂った後、ダライ・ラマ法王は飛行機で沖縄から東京に戻られた。
翌13日午前、法王は人間のよい本質と共通の責務について講演され、午後は1987年ノーベル生理学・医学賞受賞者の利根川進博士と『癒しに関する古代と現代の智恵 身体と心のバランス』のテーマで心の科学についてパネルディスカッションを行う予定である。

 (翻訳:中村高子)

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東京/議員会館での講演 近代科学/仏教科学に関するパネルディスカッション