広島・インタビュー、記者会見、他

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この日ダライ・ラマ法王は様々な分野の人たちと会見を行った。初めに応じられたのはホームレスによって販売されているビッグイシュー・ジャパンのインタビューで、最近の経済危機について意見が求められた。

会見の場に選ばれたグランドプリンスホテル22階の部屋は四方を窓に囲まれ、そこから海に浮かぶ緑の島々を臨むことができた。その広々とした光景は、法王がしばしば使われる『より大きな将来の展望』というフレーズを思い起こさせた。

経済危機によって人は経済の限界に気づくこともある。日本がバブル景気に沸いていた時、そのような経済成長はどう考えても不自然だ、と法王は警告された。インタビュアーが現在の経済状態を『混沌の時代』と称したのを受けて法王は続けられた。「ビジネスの世界は混沌の中にあるかもしれないが、普通の人たちはそうでもないようだ。インドの私が住んでいる辺りでもそういう混乱のサインは見られない。精神的に不安定になるとすれば、人間の内面を顧みずに経済的な価値観ばかりに気を取られ、心の浮き沈みが激しくなるせいかもしれない。」

「仏教はあなた方日本人の宝だ。その伝統をもっと有効に活用しなさい。宗教というと時にその儀式に重きを置きがちになるが、それでは意味がない。その本質を学べば日々の生活に教えを生かせるはずだ。般若心経を唱えてもその意味を知らなければ、どのような意義があるだろう?それではテープレコーダーと同じだ。音だけで意味がない。」

次に法王を訪れたのはバンド活動をする4人のミュージシャンで、ピースミュージックフェスタを企画する彼らは法王の音楽に対するお考えを伺った。法王はご自身の音楽の知識は非常に限られていると前置きをしてから次のようにおっしゃった。音楽は心のレベルではなく知覚のレベルで多くの人に働きかける。音楽によって大衆に向かって素晴らしいメッセージを発信することは可能だろう。「音の善し悪しも大事だが、一番大切なのはその曲がもつメッセージだ。」

真剣に質問を続ける4人に法王はおっしゃった。「人類を苦しめる『天災』の多くは実は森林伐採といった人間の活動に起因している。しかしその事実は小さな希望でもある。人間が引き起こしたことなら人間によって解決されるかもしれないからだ。」

一日の中で好きな時間はいつか、と問われた法王は、「ぐっすり眠っている時だ。悪いことは起きないし、健康にもとてもいい!」とお答えになられた。陽が傾き始め、海の上空にあった鉛色の雲の切れ間から一条の光が差し法王の背後がぱっと明るさを増した。ミュージシャンらと写真撮影をされた後、日本人記者との会見のために法王は階下へと降りていかれた。

記者団を前に法王は、人間として、仏教徒として、そしてチベット人としてのご自身の人生の目的について話をされた。それから記者たちに呼びかけた。「視聴者が『人間は基本的に悪いものだから人類に希望はない』と思ってしまうような悪いニュースばかりを報道しないでほしい。人々にもっと希望と勇気を与えてほしい!」

中国についても質問が出された。意図的であるかないかは別にして、現在チベットでは文化虐殺が起きている。漢民族の人口が全体の65%に達したラサでは、チベット人が中国語の使用を強要されている。チベット語の教科書使用が大学で廃止され、チベット民族からその言語と宗教への信仰が奪われようとしている。毛沢東は大漢民族主義という極端な国粋主義を批判していたのだが、と法王はおっしゃった。

最後に、他国からの圧力に日本はどう対応するべきかを尋ねられ、「寛容の精神をもって、確固たる姿勢で臨むことが大切だ!」と述べられた。3時に終了を予定していた記者団との懇談は4時20分まで続けられ、最後に全員で記念撮影が行われた。

法王が帰国準備のためにご自分の部屋に戻られた頃には、夕日が広島の街を照らしていた。街行く人々はみな微笑みを浮かべ輝いているように見えた。法王は16日早朝東京に向かわれ、そこからデリーへの帰途につかれるご予定である。

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