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大阪で『入菩薩行論』の法話会 3日目

2016年5月12日
大阪

この数日間曇りや雨の日が続いていたが、今朝の大阪では輝く陽射しが窓から差し込み、頭上には青空が広がっていた。ダライ・ラマ法王がホテルから大阪府立国際会議場に向かって歩いていかれる中、陽光が建物のまわりにある木々の若葉を照らしていた。

大阪府立国際会議場に到着し、参加者に挨拶をされるダライ・ラマ法王。
2016年5月12日、大阪(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)

法王は着座されると、次のように法話を始められた。「今日はまず最初に、ラムリム(菩提道次第)の伝統についてお話ししたいと思います。8世紀に、ティソン・デツェン王がシャーンタラクシタ(寂護)をチベットに招聘されました。シャーンタラクシタは当時のナーランダー僧院の指導的学僧であり、チベットに純粋なナーランダー僧院の伝統を伝え、確立された方です。しかし、ティ・レルパチェン王の治世以降、チベットは政治的混乱期に入り、小国に分裂した時代を迎えることになりました」

「西チベットのガリ地方にはトリンを都とするグゲ王国があり、この国の仏教王チャンチュプ・ウーはインドから導師たちを招聘したいと願っていました。シャーンタラクシタやパドマサンバヴァによって確立され、その後衰退してしまった伝統を再興するためです。当時、翻訳官リンチェン・サンポがすでにこの地方で活躍していました。王の度重なる懇請に応じて、ヴィクラマシーラ僧院の僧院長アティーシャがチベットに赴かれました」

法王は、続いて次のように説明された。アティーシャは、特にチベット人のために教えを著述することを王から依頼され、一冊のテキストを著された。それが『菩提道灯論』である。この書がインドの他の論書にまさる点は、ひとりの修行者が悟りに向かって歩むべき修行道がすべて説き示されていることである。アティーシャは三つのレベルの能力を持つ修行者に関連づけて、これらの段階を明らかにされている。下士(初級の修行者)は来世において善趣(天人や人間などの恵まれた世界)に転生することを目的として修行をする。中士(中級の修行者)は輪廻の苦しみからの解放を求めて修行をする。そして、上士(上級の修行者)はすべての有情を救済するために一切智の境地に至ることを目的として、菩提心と智慧を育む修行をするのである。

4日間にわたる法話会の3日目、テキストの解説をされるダライ・ラマ法王。
2016年5月12日、大阪(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)

『菩提道灯論』で説かれたラムリム(菩提道次第)の体系は、後世におけるチベット人の学僧たちの規範となった。ニンマ派の導師ロンチェンパは『心性安息論』においてラムリムの修道論に従っている。カギュ派のダクポ・ハジェ(ガンポパ)による『解脱荘厳』も同様で、この書は仏性の解説から始まっている。サキャ派の導師たちによる道果説の教え(ラムデ)もラムリムの修道論に従っている。そして、ゲルク派の始祖ツォンカパは、『菩提道次第広論』をはじめアティーシャの『菩提道灯論』について詳しい註釈書を多く著されている。ツォンカパはその著述の際にカダム派の主要六論書も参照されており、『入菩薩行論』はその中のひとつに数えられている。

マイトレーヤ(弥勒)の『現観荘厳論』に説かれているように、私たちは「二つの真理」(二諦)と『四つの聖なる真理』(四聖諦)の理解に基づいて三宝への帰依をするべきである。解脱に至るのは可能であるということを理解して初めて、修行をしたいという熱意が生じてくる。教えに従わなければ地獄に落ちると弟子たちを怖がらせるよりも、この方がはるかに効果的なのである。仏陀は安楽に歩める修行道を説かれたが、これは仏教の重要な要素である論理的なものの考えかたと哲学的な見解に支えられているからであり、それがゆえに、現代の科学者たちとの対話も可能となり、この対話は双方にとって非常役に立っている。

法王は『入菩薩行論』の解説に戻られ、忍耐の実践に取り組むべきであるというアドバイスから始まる第7章を読み始められた。

そのように忍耐〔の修行をよく修めたら〕精進〔の修行〕を始めるべきである
このように精進〔があれば〕悟りにとどまることができる
風がなければ〔灯明や木の葉が〕揺らぐことなく〔とどまる〕ように
精進がなければ徳は生じない

法王は、修行をする際は、自分にはできるという自信を持つことが必要だと強調され、煩悩を鎮めるためには憶念(注意深さ)と正知(監視作用)を結び合わせて実践するべきことを説明された。精進の妨げとなるのは怠惰な心であり、煩悩が起きても対策を講じずに放置しておくと、怠惰な心は習慣性の力によって増大していくので、そのようなことのないように速やかに対策を講じて対処しなければならない。

ダライ・ラマ法王の法話を聴きながらテキストを目で追う僧侶。
2016年5月12日、大阪(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)

法王は第7章の「禅定」に進まれて、この章の主題は「止」(高められた一点集中の瞑想)を育むことであると述べられた。「止」は、非仏教徒たちの伝統宗教でも実践されている。「止」とは心が安定した状態のことであり、無念無想で肉体的に静止していることを意味しているのではない。『入菩薩行論』には、「止」を成就するための必要条件、瞑想の対象に何を選ぶべきか、 昏沈 こんじん(沈み込んだ心)と 掉挙 じょうこ( 昂奮 こうふん)が起きた時にはどのように対策を講じるべきかが詳しく説明されている。瞑想の対象には、花などををはじめどんなものを選んでもよいが、仏教徒なら仏陀のお姿など、対象自体に徳ある性質が備わっているものを選ぶ方が好ましいとされている。「止」を成就するためには、瞑想の対象を鮮明に維持すること、一点集中してとどまること、この二点が重要な要素となる。

また、このテキストには、女性に対する執着や性的欲望をなくすために女性のからだがどれほど不浄なものであるかが説かれているが、それは、元々このテキストが比丘たちを対象として説かれた教えであったからである。そこで法王は、この教えを女性が読む時は、女性を男性に置き換えて、男性に対する執着をなくすための対策として、男性のからだは不浄なものであるということについて考えるべきことを説明された。

菩提心を育むための「自分と他者の立場を入れ替えて考える」という修行について、このテキストにはシャーンティデーヴァ独自の解説がされており、それは第90偈の平等心を育む教えから始まっている。

まず最初に、自分と他者は平等であると瞑想する努力をしなさい
〔他者も〕幸せ〔を求め、〕
苦しみ〔をなくしたいと願っていることは自分と〕同じなのだから
すべて〔の有情〕を自分と同じように守るべきである

さらに、第120偈では次のように説かれている。

自分と他者を
速やかに救いたいと望む者は
自分と他者〔の立場〕を入れ替え〔て考え〕る
秘密の教えを修行するべきである

法王は述べられた。「自分と他者の立場を入れ替えて考える」という修行が「秘密の教え」とされているのは、誰もが実践できる修行ではないからである。この修行の心髄は、第129偈に次のようにまとめられている。

この世のいかなる幸せも
他者の幸せを願い、〔利他をなす〕ことから生じる
この世のいかなる苦しみも
〔自分だけを大切にして〕自分の幸せを求めることから生じる

昼食休憩から戻られると、法王は、瞑想のしかたについてはナーラーンダー僧院の偉大な導師シャーンタラクシタの弟子であるカマラシーラ(蓮華戒)がチベットで著された『修習次第』を読んで学ぶことを薦められた。

続いて法王は、「智慧」について説かれている第9章に入り、次の偈を引用された。

仏陀たちは有情がなした不徳を水で洗い流すことはできない
その手で有情の苦しみを取り除くこともできない
自ら得た理解を他者に与えることもできない
ただ、真如という真理を示すことで有情を救済されている

第9章では、空に関する仏教の各学派の見解の違いが明らかにされているが、特に唯識派と中観派による「二つの真理」の解釈に基づいて、まず人無我について、続いて法無我について細かく分析されている。

この人生は意味なくたちまち終わってしまう
分析〔する人間の知性〕はたいへん得難いものなのに
習慣となった気の散乱をなくす方法など
いったいどこにあるだろうか    (160偈)

再び有暇をそなえた〔人間の恵まれた生〕を得ることは難しく
仏陀が世に現れることも非常に難しい
煩悩の奔流を止めるのは難しく
ああ、苦しみは間断なく続いていく    (162偈)

いつになったら実体にとらわれることなく
〔慈悲と智慧の双入により〕敬意を持って徳の資糧を積み
輪廻〔に生まれる者〕を対象に
空を説くことができるだろうか    (167偈)

4日間にわたる法話会の3日目、ダライ・ラマ法王の法話に耳を傾ける聴衆。
2016年5月12日、大阪(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)

午後の法話が終わりに近づいた。法王は、今回はすべての偈頌を読むのではなく、この著作に託されたシャーンティデーヴァの真意を伝えることを主眼としたことを伝えられた。

「いつも『入菩薩行論』をそばに置いて、読んでください。これまで私がお話ししたことについて考えてください。物語を読むようにではなく、読んで、その意味について考えてください。そうすれば次第に理解が深まっていき、煩悩は少なくなっていくことでしょう」

「明日の午前中は、在家信者戒を授与します。アティーシャは、修行をするためにはまず波羅提木叉の戒律を授け、修行のよき土台を作るようにと述べられています。続いて、菩薩戒と文殊師利菩薩の許可灌頂を授与します。明日は一番最初に『般若心経』を唱えますが、ここは日本ですので最初に日本語唱えていただき、その次に、聴衆の数が最も多い中国語で唱えていただきます。ロシア語、モンゴル語、韓国語、チベット語、英語の通訳を聞いている人は、それぞれの国の言葉で唱えてくださって結構です」

そして法王は、2,700人の法話参加者たちの盛大な拍手に送られて、会場を後にされた。

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