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チベットをハックせよ:中国サイバー戦争グランドゼロのダラムサラへようこそ

(2013年12月5日 CTA

ジョナサン・カイマン

[外交政策]

インド・ダラムサラ — チベット子供村の講堂前にロブサン・ギャツォ・シタルが座っている。彼の発表するパワーポイントの光が、生徒の列前方を微かに照らしている。「知らない添付ファイルは絶対に開かないこと」と生徒に諭すシタル氏。頷く生徒。電飾のキャンドルで縁取られたダライラマ法王の写真が飾られた舞台。どこからか迷い込んだ犬が群衆の後ろを歩く。「誰にもパスワードを見せないこと」とシタル氏は続ける。スライドには見覚えのないUSBを使う危険性を示すページが映し出させる。「中国政府や他人が皆さんのコンピュータをコントロールしているんです」

ダラムサラ、人口20,000人のこの土地は、世界で最もハックされている場所である。インドのヒマラヤの麓に位置するこの小さな街は、亡命チベット人の精神的リーダーであるダライラマ法王の住まいがあり、亡命政権の中心部、CTA(正式にはCentral Tibetan Administration:中央チベット亡命政権)があり、中国政府がテロリストと見なすチベットメディアや非政府団体がある。1959年のラサ蜂起による中国共産党の武力行使後、ダライラマ法王は現在の西中国チベット自治区都ラサからこの地に亡命した。インドはダライラマ法王を宗教融合のアイコンとし、何千もの亡命者を受け入れた。2009年の調べでは、およそ130,000人のチベット人が亡命生活を送っている。 中でもダラムサラは政治の中心地である。

街は懐かしさに満ちている。ヒマラヤ杉に覆われた急勾配の山道、屋根を飛び回る猿が郷愁を誘う。しかし街は確実に未来へ向けて変化している。コンピュータは至る所にあり、通りのカフェではダブルエスプレッソとワイヤレスインターネットが楽しめる。(パスワードに多いのは「Free Tibet(チベットに自由を)」と「Independence(独立)」)。若いチベット人たちが手にするiPhoneには、他社製品にはない、チベット語キーボードのオプションがある。

街のチベット人コミュニティとチベット本国とのコミュニケーションは以前より容易になっている。ただし家に電話をするリスクは以前高いままだ。「安全な電話線を使わないと、本国のチベット人は、機密情報を国外に漏らしたと逮捕されているかもしれない」とシタル氏は言う。同人はニューヨークを拠点とする非営利団体チベットアクションインスチュートのコーディネータであり、教育イニシアチブのスポンサーであり、コミュニケーションシステム上の活動家のトレーニングを行う。

中国政府は各地に広がり、ここダラムサラでも 破壊工作ソフトを構築したり追跡困難なメッセージ傍受を続けている。CTAの中国語版ウェブサイトは8月にハックされた。チベット人コミュニティでは、ダライラマ法王の側近からスマートフォンを持つ亡命者まで全員がターゲットとなっている。

11月初旬、チベット自治区内委書記、陳全国は, チベットにおけるダライラマ法王の声を排除する対策を進めた。それにはオンラインでのコミュニケーションの取締りも含まれており、「敵勢力ダライ一味の声も姿も排除するよう全力を尽くせ」と第一党ジャーナル誌Qiushiに寄せた。

長年の中国による残酷な侵略により、チベットでは焼身抗議が後を絶たない。北京では手荒な武力行使とハイテク技術によって不安を抑えつけている。2009年2月以来、少なくとも120人のヒマラヤに住む老若男女、出家在家を問わず、チベット人が中国政策に反対して焼身抗議をしている。中国当局は暴力でそれを抑え、軍隊を配置し、電話線を切断し、僧侶に過酷な「愛国教育」プログラムを行う。彼らは焼身を誘発する「敵対的な外国勢力」を非難する。ダラムサラで焼身抗議について集めた情報を海外に伝える支援グループを「敵対的な外国勢力」として非難している。専門家はハックもキャンペーンの一環で、抗議者を突き止めようとの狙いがあると言う。

ダラムサラのサイバー攻撃は街のネットワーク基盤をモニターまたはコントロールできるようになっていると専門家は言う。攻撃に多いのはスピアフィッシング攻撃だという。特にCTAや独立組織で働くチベット人は、よく友達や同僚と称した知らないメールが送られてくると言う。添付ファイルを開くと、コンピュータは侵され、ハッカーがシステムを遠隔操作できるようになる。コンピュータ上のキーストロークもパスワードも記録され、コンテンツもダウンロードされる。全てが危険に侵されることになる。

前亡命政権首相アドバイザーのケルサン・オカツァン氏は2012年7月にハックされていることを知ったショックを思い出す。オカツァン氏はロブサン・サンゲ首相とのミーティングを設定するため米国上院議員にEメールを送った。翌朝この上院議員はワシントンの中国大使館から電話を受け、ミーティングには参加しないよう迫った。結局ミーティングは行われたが、「しかし問題は、メールのやり取りが傍受されたことを、彼らが知っていたことだ」とオカツァン氏は言う。「安全を確保するにはどうすべきか、リスクと他人の目にさらされるのは、ただ事ではない」

CTAのコンピュータの半数以上は何らかの破壊工作ソフトが仕組まれていると、亡命政権広報担当者ツェリン・ワンチョクは予測する。「ダラムサラの主要なコンピュータのほとんどが何らかのウィルスに侵されている」と氏は続ける。ネットワーク管理をするテクニカルスタッフ13人は不当なコードを突き止めるのにハードディスクを探し回り、大半の時間を使っている。「彼らは執拗に我々を追ってきますよ」と匿名の職員は話す。「彼らは100,000回試して1回当たれば、そこに付込んでできることは全てやる」

サイバーセキュリティの専門家はこれを「APT攻撃-特定のターゲットに対して継続的に攻撃や潜伏を行い、さまざまな方法で執拗に妨害行為を行うサイバー攻撃」と呼ぶ。「ダラムサラはまさにAPT攻撃のグランドゼロである」とオックスフォード大学サイバーセキュリティトレーニングセンター博士候補のグレッグ・ウォルトン氏は言う。ウォルトン氏は2008年にダラムサラを訪れ、ダライラマ私設オフィスのシステムへの脅威について教えた。容疑者は一連のネットワーク侵入の主犯、米国捜査当局が「Byzantine Hades」と名づけた影のハッカーグループではないかと見ている。ウィキリークが発表した米国務省ケーブルによると、このグループは人民解放軍、中国軍隊と密接な関わりがあり、中国南部の成都を拠点にしているという。

ダラムサラに拠点を置き、欧米企業や軍事、政府機関に浸透するチベットのNGOは同グループにアタックされた経験を持つ、とウォルトン氏は言う。そのうちサイバーセキュリティ社のMandiantが「APT1」と呼ぶグループは、中国軍隊傘下のエリートサイバー諜報団である。 別のグループは諜報企業で、2011年コンピュータセキュリティ会社Symantec社によるアタックキャンペーン「Nitro」の際に、極秘資料と公式を世界主要企業から盗んだ過去を持つ。「悲観的な言い方をすれば、チベット人が亡命先でできることは、ごく限られている。 資金がなさ過ぎるからだ」とウォルトン氏は言う。「仮に国務省や国防省が同じグループに襲われたとして、ヒマラヤの麓に住む亡命者たちに、一体どんな希望を持てというのか」中国APTの「千の砂を集める」戦略、つまりどんな些細な情報でも集めたものに価値がある望みをかけて、どんな些細な情報にも食らいつく戦略を説明する。

おそらくチベットのサイバーセキュリティへのより悪質な脅しはWeChatだろう。InstagramとSkypeとFacebookを併せたような中国のスマートフォンチャットのアプリだ。このプログラムのユーザー5億人中、1億人が中国国外にいる。ダラムサラでは過去数年、本国の親族への連絡の取りやすさから、利用者が急増している。「ここの友達は皆WeChatを使っています」とヒマラヤを越えてインドに亡命した22歳の青年は言う。「チベット内のチベット人がWeChat使っているんだから、僕らが使わない手はない」と続ける。

このプログラムは深圳(シンセン)に拠点を置くインターネット企業Tencent社が開発した。中国国内のインターネット企業がどこもそうであるように、国のリーダーシップとの癒着に味をしめているとの噂もある。「チベット市民の視点から言えば、WeChatそのものが悪意に満ちている — 大変悪質だ」とウォルトン氏は言う。「利用者のやり取りはすべて上海を通して交信されている。おそらく中国のPRISMと同等のものにつながっているのだろう」とエドワード・スノーデン氏が漏洩させた米国家安全保障局の極秘調査プログラムを見ながら続ける。支援グループの報告によると、今年夏中国占領下のチベットで僧侶2人がWeChat に焼身抗議の画像を載せたことで逮捕された。1人には懲役6年の判決がなされた。もう1人は終身刑になる見通しだ。Tencent社はノーコメントとの返事。

近年ではセキュリティ専門家がこぞってダラムサラで短期的なサイバーアタックの分析をするようになったとバーミンガム大学コンピュータサイエンティストであり、ダライラマ法王の私設オフィスを手伝ったシシル・ナガラジャ氏は言う。「お金を払う必要はありません。ケンブリッジの優秀な人材は、チベット人のネット上の人権擁護に貢献したい気持ちの方が強いですから」と言う。多くは若く、左傾の理想主義者で目新しい仕事が好きだ。「ただこれはあくまでも応急処置です」と彼は続ける。中国のハッキングは終わりがないが、たいていの人は2,3年で滞在を終えてしまう。

「私たちは弱くもろいです」とダラムサラに住む中国にチベットのニュースを短波ラジオで報道するラジオ番組ボイス オブ チベットの編集者テンジン・パルドゥンは言う。パルドゥン氏の個人メールアカウントはハックされ、放送局のウェブサイトは何度も作動しなくなった。それでもパルドゥン氏は脅しに屈しない。チベット人が焼身抗議を続けるなら、その話を伝え続けると彼女は言う。「彼らが何をしたか、なぜそうしたかを外の世界に伝える義務が私たちにはあると思います」と続ける。

そのころダラムサラのチベット人コミュニティでは初の防衛処置がとられた。3月、サイバー活動家が安全なチベット語メッセージアプリ、YakChat を開始した。また最近チベット亡命政権は新しいケーブルを設置し、サーバーのアップデートと新規スタッフのトレーニングを行った。情報によると、詳細はどこにも公開していないという。

「我々の意図は、チベット人にもっとサイバーセキュリティに精通する機会を提供することです」とオックスフォード研究者のウォルトン氏は言う。シタル氏が発表をしたチベット子供村の生徒の多くはNGO支援組織で働いたりCTAに入省したりする。彼らの多くがサイバーセキュリティについて話を聞くのは初めてだ。専門家は生徒の心に強く響くよう願っている。「プライバシー保護の教育は時間のかかる作業です。彼らはまだインターネットを使い慣れていない」と学校のコンピュータプログラム責任者のプンツォク・ドルジェ氏は言う。

シタル氏の発表が終わるころには外は黄昏になっていた。生徒は講堂を後にし、雨季の寒気立ち込める外へと出た。22歳亡命チベット人のナムギャル氏は校内では電話を持ち歩くのは禁止され、休みの日に家族に連絡を取ることしかできないと話す。「WeChat でダライラマ法王の話をしていた為です」と顔をしかめた。彼は今となっては中国が盗聴している可能性について理解していた。この青年は韓国製のメッセージアプリをダウンロードして盗聴の危険を防ぐであろうし、話す内容に注意を払うようになるだろう。

(翻訳:高島 美奈)

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