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チベットの前進のために—
ダライ・ラマ法王と中国政府間との対話状況について

(2010年11月24日 ダライ・ラマ法王特使・ロディ・ギャルツェン・ギャリ
南アジア研究所(シンガポール)にて)
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はじめに、チベット問題の前進、政治的解決に向けた中国政府との対話状況について述べる機会を与えてくださった、南アジア研究所(ISAS)に感謝したく思います。

チベット亡命政権と中国政府の対話は、過去数十年にわたり、何度も断絶と再開を繰り返してきました。ようやく最近になって、中華人民共和国(PRC)の枠のなかで、チベット問題解決の方策を追求するというダライ・ラマ法王の立場が、きっぱりと先方に伝えられる段階に入りました。問題解決につながる具体的な糸口は未だ得られていないものの、これまでの対話を通じ、両陣営が互いの立場、互いがどのような点に懸念を抱いているかについて理解を深めることができたと言えるでしょう。

中国政府とチベット側のこれまでの対話の経過を理解するために、その歴史的発展についてお話したく思います。1979年に対話が始まって以来、そのプロセスは三段階に分けることができます。

第一期(1979年〜1985年)

対話プロセスの第一期が始まったのは、1979年に当時の中国指導者、鄧小平主席が(ダライ・ラマの実兄、ギャロ・トンドゥプを通じ)ダライ・ラマ法王に対し、チベット独立以外のあらゆる項目について話し合いと解決の可能性がある——とのメッセージを伝えたときです。

その後、1982年と1984年に、チベット亡命政権高官による代表団が中国政府との試験的会談に向けて派遣されました。私は、そのいずれにも参加していました。当時、中国政府とは、幅広い項目について話をしました。そのとき、チベット側が明らかにしたことは、チベット問題とは、ダライ・ラマ法王の将来や、個人的身上の問題ではなく、600万人のチベット人の問題だ——ということです。

また、1979年から1985年にかけて、ダライ・ラマ法王に派遣された調査団がチベット各地方の状況を調査しました。

当時、チベット代表団は、鄧小平や他の政治局委員を含む中国政府首脳と直接、面会していました。

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第二期(1985年〜1993年)

1985年〜1993年が第二期です。この期間、ダライ・ラマ法王の使者は、ときたま中国を訪問しました。

チベット問題の踏み込んだ話し合いに端緒を開くべく、ダライ・ラマ法王は、1987年9月に、自らの考えを盛り込んだ5項目平和プランを、ワシントンの米国議会の人権委員会に発表しました。その後、1988年6月には、同プランの第5条(「将来のチベットの地位、ならびにチベット人と中国人の関係についての真摯な交渉の開始」)を補筆修正ののちに、ストラスブールの欧州議会で、これを発表しました。このプランで提案したことの骨子は、中国政府がチベットの外交・防衛全般を担う現状を維持しつつ、チベット人が内政について自治を行う——というものでした。

その後、中国政府は、ダライ・ラマ法王が望んだときには、いつでもその代表団と話し合う、という点に公式に合意しました。ダライ・ラマ法王は、対話を望む自らの意思をはっきりと伝えるべく、この中国側の姿勢に速やかに、前向きに応じました。法王は、交渉団を任命し、ジュネーブで会談を行うことを提案しました。残念ながら、手続き上の問題を口実に、その後チベット側が手続きの問題をクリアしたにも関わらず中国政府はこれに応じませんでした。法王は、同年4月に、香港に両陣営が集って会談を行うことを提案しましたが、中国側はこれも拒否しました。

1987年9月は、中国の政策に異議を唱える本土のチベット人による大規模デモ活動が起きはじめた時期でした。中国政府はチベット人を暴力で弾圧し、数百人を投獄した後、1989年にはチベットに戒厳令を敷きました。こうした中国側の行動により、この時期の対話プロセスの雰囲気は非常に悪くなりました。

このころ、ダライ・ラマ法王は、その平和への努力が国際社会に認知され、1989年にノーベル平和賞を受賞しました。これに対し、中国は否定的な態度で接しました。結果として、1993年8月を最後に両陣営の接触は断絶しました。

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第三期(2002〜。対話プロセスの再開)

数年にわたる非公式、水面下の活発な接触の後、両陣営は、公式に直接的接触を再開することに合意し、第一ラウンドが2002年9月に開催されました。このプロセスは第三期に分類されます。この段階では、会談は日常的に行われるようになり、会談内容も事務的な内容が多くなりました。2002年から今日まで、合計9ラウンドおよび、1回の非公式セッションが開催されました。このうち、直近の第九ラウンドは、2010年1月に行われました。このラウンド全てにおいて、私はチベット側を代表していました。

この第三期の一連の話し合いにおいて、チベット側は、ダライ・ラマ法王による、チベットの将来に対する立場を説明し、明確にしました。そうしたなかで、2008年11月の第八ラウンドにおいて、チベット側は、「チベット人のための真の自治についての覚書」を公式に発表する段階に至ったのです。

この覚書は、真の自治についてのチベット側の立場を規定するとともに、(我々が解釈したところの)中華人民共和国憲法の自治原則を適用することにより、どのようにチベット人の自治に対する特別なニーズが満たされるかを、——を規定しています。覚書では、チベット側の十一の基本的要望が述べられていますが、それらは、いずれも中華人民共和国の憲法と、地方自治法に規定されている内容と合致しています。

中国指導陣はチベット側の覚書についていくつかの懸念点を持っており、それを憲法違反だとして拒否したため、2010年1月の第九ラウンドにおいて、チベット側は「覚書についての付記」を発表しました。この付記では、中国側の懸念点を取り上げ、対話を前進させるための建設的な提案を数点、行いました。この付記が作られたもう一つの理由は、ダライ・ラマ法王の立場に対し世間が誤った解釈を加え、考えを歪曲することを防止する、というものです。

ダライ・ラマ法王の唯一の心配事は、チベット人が幸せに暮らせるかどうか、です。法王は、自らの身の上や、自らを取り巻く人々の身の上のことを問題にしたことはありません。我々は、チベット人の大半が社会の片隅に追いやられ、宗教的、政治的、経済的、言語的、文化的、および社会的な権利を十分に謳歌していないと考えています。2008年3月10日に始まりチベット本土各地に拡がった平和的デモでは、またしても、中国の政策に対する人々の不満があからさまになりました。こうした平和的デモの過半は、チベット自治区の外で起きています。2010年10月19日からは、学校教育の使用言語として、チベット語の代わりに中国語を行うという提案に対し、静かな抗議行動が複数起きています。これは、チベット人の一番、直近での不満表明と言えます。

それにもかかわらず、中国政府は、チベット人は、幸福で満足した状況にいるとして、チベット問題は存在しない、と主張しています。

一つの状況に二つの異なった見方が並存するなか、チベット人が置かれている状況について、両陣営共同の調査を行ってはどうかとチベット側は提案しました。調査には、チベット人が恐怖も猜疑の念も持たずに参加する機会が与えられるべきです。もし、この調査の結果、チベット人の大半には問題がなく、彼らが現状に満足しているとしたら、それこそがダライ・ラマ法王の望んでいることです。しかし、もし、チベット人の大半が不満を持っているということが、調査の結果、明らかになるのであれば、中国政府は、問題の存在を認め、事実に基づいて真実を追求するという精神で、話し合いを行い、解決策を探す必要があります。

2008年5月の深センでの非公式セッションにおいては、2008年3月10日以降のチベット人居住区における抗議活動はダライ・ラマ法王と亡命政権によって煽動されている——とする中国政府の嫌疑をチベット側は否定しました。中国政府は、再三にわたり、同様の主張をしているため、チベット側は、中国政府に対し、こうしたことが本当に行われているかどうか、チベット本土および、亡命コミュニティにおいて科学的な全面調査を行って欲しいと要請し、チベット亡命政権はそうした調査にあらゆる協力を惜しまない、と伝えました。

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中国側が提示した、いくつかの重要な問題

直近のラウンドにおいて、中国側は、チベットの最近の状況、とりわけ、2010年1月18日〜20日に行われた第五回チベット・ワーク・フォーラムの内容について、我々に細かい報告を行いました。それによれば、フォーラムは、チベット自治区とそれ以外のチベット人居住地区において、教育、医療、環境保護といった公共分野を中心に改善を行い、チベット人の生活水準の向上を目指すことを決定したとのことです。報告書に書かれた決定事項、とくに農村地域におけるチベット人の生活の改善の決定を我々は歓迎します。

我々がとりわけ評価するのは、第五回チベット・ワーク・フォーラムでは、チベット自治区のみならず、それ以外のチベット人居住区も含んだ、地域全体の開発問題に触れられている点です。我々は、チベット人が住む全ての地域は、同一の行政単位として扱われ、一貫した政策が採られるべきであると強く信じています。政治的スローガンを無視すれば、フォーラムで優先課題とされた問題は、我々の覚書で取り上げた、チベット人の基本的要望と合致しているのです。ところが、最近の状況を見ていると、チベット人が居住する全ての地域に同一の良好な政策が敷かれる代わりに、チベット自治区で実施されている弾圧的措置が他のチベット人居住区でも行われるようになっているようです。これは、非生産的な政策であるということに中国政府は気がつくべきです。

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ダライ・ラマ法王の中道アプローチの本質

中国の指導陣が十分に認識できていない基本的な点として、ダライ・ラマ法王は、その中道アプローチを通じ、中華人民共和国の枠内における自治という問題解決方法に本気で真摯に取り組んでいる、ということがあります。

ダライ・ラマ法王と、チベット亡命政権は、チベット独立を目指すのではなく、中国内における真の自治を目指し、そのなかで自らの文化、言語、宗教、アイデンティティ、チベット高原の自然の保護という、基本的な要望の実現を目指そうとする、勇気ある決断を行いました。

中道アプローチを掲げることで、我々はチベット問題を平和的に解決し、平等と相互協力に基づいて、地域に安定をもたらし、チベット人と中国人が共存する社会を目指しています。こうした考えは、1970年代半ばに、法王が複数の顧問と、内部での話し合いをするなかで生まれました。その後、長い年月をかけて、チベット亡命政権は、中国国内の既存の政治的現実と照らし合わせて、どのように中道アプローチを実現するか、具体的な中身を詰めてきました。

中国の公式メディアは依然として、法王を、チベット独立を目指す分離主義者、というレッテルを貼っています。彼らが引き合いに出すのは、5項目の平和プランや、ストラスブールの提案であり、その後、法王が中国側の懸念に対して示した理解や自らの立場を明確化した内容にはあえて触れようとしません。

「チベット人の真の自治のための覚書」は、法王の中道アプローチを明確に反映したものです。

我々の覚書と、覚書への付記は、世界中の政府、議会、組織、個人から、道理をわきまえた正統な主張だとして評価されています。その多くが中国政府の対応に驚きと、深い失望を覚えています。中国政府の主張は不適切なものだとして、覚書の各項目について、チベット側との実質的対話を再開するよう、強く催促し続けています。たとえば、2010年2月18日の、ダライ・ラマ法王とオバマ大統領の会談の後、ホワイト・ハウスは、「大統領はダライ・ラマの『中道』アプローチ、非暴力へのコミットメント、中国政府との対話の継続を賞賛した」との声明を発表しています。

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チベット問題が解決しないことの余波

チベット問題の解決は、チベット人の権利の問題にとどまりません。チベットの将来は、チベット仏教文化の将来の問題でもあり、チベット人と、より大きな国際社会の双方に影響を与えます。慈悲に価値を置くチベット仏教は、チベット、中国、そしてアジア地域全体に必要とされるものです。チベットの仏教文化というときに、我々は、単にチベット仏教の宗教的側面だけを述べているわけではありません。

中国は超大国となることを欲していますが、超大国のステータスは、単に軍事的、経済的に強大であることで得られるものではありません。道徳的権威は、超大国にとって非常に重要な条件であり、チベット仏教文化を学ぶことで、自分のものとすることができます。

地政学的見地から言えば、チベット問題の解決は、インドと中国という将来の二大覇権国の関係にとってプラスであるのみならず、アジア地域全体にプラスです。シンガポールのジョージ・ヤオ外務大臣は、とある記事になかで「チベットは、世界を変えつつある、より大きなアジアのドラマの一部分に過ぎない」とおっしゃっていますが、私も同意します。地政学、戦略、環境保全の観点から、チベット情勢は、変転極まりないアジアの情勢に深い影響を及ぼすでしょう。

科学者の中には、チベット高原を「北極、南極に継ぐ、第三の極」と言う者もあり、環境保全の見地から、チベット高原は重要です。アジアの主要な大河の多くがチベット高原を水源としています。ですから、チベットの環境破壊は、地球全体の環境問題につながります。

また、チベット問題は、中国人自身に影響を与えます。若者と知識人を中心に、チベットの状況に対する中国の人々の意識は高まりつつあります。彼らは、チベット問題に対して勇気を持って実際的なアプローチを取ることを主張し、問題解決においては、ダライ・ラマ法王がカギとなる、と考えています。彼らは、中国政府のチベット問題に対する態度が、国内の安定や、国際的な地位といった、中国自身の将来に直接影響してくると考えているのです。

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解決の阻害要因

私は、中国当局による、チベット問題の「対話と交渉のための扉は開かれている」とする再三の主張が虚偽のものだとは言いません。それでも、彼らが、今のプロセスの果てに、最終的に実質的で意味のある結論に達しようと真摯に、本気で考えているのかというと、そうではないようにも思えます。

中国政府の中には、いまだにチベット問題は経済的手段で解決可能であり、中国が世界的な経済大国、政治大国となることにより、国内的にも対外的にもチベットの現状が是認されることになる、と考える一派がいます。

また、彼らは、ダライ・ラマ法王が死去するか、加齢のため強硬な姿勢を取れなくなると、チベット問題は自然消滅する、と考えているようです。

中国指導陣の最大の懸念は、中国のチベット支配に正統性がないことです。中国政府は、正統性を付与する能力と権威を持っているのは、ダライ・ラマ法王だけだということを知っています。だからこそ、我々は中国政府に対し、もし自治の合意が行われるのであれば、それがチベットの人々の支持を得、円滑に履行できるよう、法王自らが、こうした合意に道徳的権威を付与する用意があると直接的に伝えているし、法王自身もそのように公式発表しているのです。

中国政府は中華人民共和国の主権と領土保全を最重要と捉えており、これを万人が尊重するべきだ、と再三にわたって強調しています。これまで、私がここで述べてきたように、チベット側はそれを尊重しているといえるでしょう。同じように、我々にも、自らにとって最も重要と考える点があります。それは、チベット人独自のアイデンティティを守り育てていくことです。中国政府は、チベット人のこの正当な権利を認め、尊重し、我々と共同歩調を採るべきです。

本質的には、チベット問題は、チベット人と中国人のあいだで解決するべき問題です。中国政府が第三者の介入を望まないように、チベット人も、この問題を解決する正しい方法は、中国政府との話し合いを通じたものだと考えています。同時にチベット問題は、アジア全体の平和と安定性に直接的影響を持つ、国際問題でもあるのです。

チベット・中国紛争を学ぶ学生は、チベット側と中国側の立場の基本的な違いを明確に理解し、評価しなければなりません。その違いが分からない人は、専門家のなかにもいるようです。

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未来に向けて

中国政府が前進するために、政治的意思を持って、真摯に事に当たれば、チベット問題解決のための共通の足場が見つからない理由はありません。

我々は、それを、チベットの歴史を書き換えることがなく(=訳注:チベット独立を経ることなく)行うことが出来ると信じています。もし我々がチベットの歴史を書き換える方向に足を進めるなら、それは、中国が他の民族とのあいだに抱えている既存の紛争を一層、複雑なものにするだけでなく、新しい問題を生むでしょう。同時に、中国政府は過去に(自らになされた)帝国主義的行為に文句を言い続けることが、対外的にどのような意味、反響をもつのかということを良く考える必要があります。

今日、中国指導陣は、和諧社会の建設、ということを語っています。我々は、そうした政策目標は、中国のチベット政策に直接的に影響を与えるものと確信しているがゆえ、この方向性を強く支持します。ただし、民族間の平等な関係がなくては、和諧社会などありえないことも事実であります。

チベット人、とりわけ、本土のチベット人は、あらゆる局面で不平等な現実に日々直面しています。故パンチェン・ラマのような優れた政治リーダーは、このことについての懸念をいくたびか表明しており、いかなる団結のための話し合いの前にも、まず平等の実現が必要だとしました。

ダライ・ラマ法王は、未来志向のアプローチを採っています。チベット人の利益になり、かつ、中華人民共和国の調和と安定に寄与し、アジアの平和につながる、あらゆるイニシアティブを採りたいと考えています。ダライ・ラマ法王は、自らが中国政府と共に歩むことで、チベット人が独自のアイデンティティを保持し、誇りを取り戻し、同時に、中華人民共和国の安定と結束が維持できると考えています。

お話させていただく機会をいただきましたこと、あらためてお礼を申します。ありがとうございました。

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(翻訳:吉田明子)

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