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欧州議会公聴会
中国との対話決裂後のチベットの状況について

(2009年3月31日 ダライ・ラマ法王特使 ケルサン・ギャルツェン)

(欧州議会/外交委員会 ブリュッセル)

欧州議会公聴会:中国との対話決裂後のチベットの状況について

チベットが危機的な状況におかれている現在、このような重要な公聴会を開いていただいた議長ならびに委員会のみなさまにご挨拶申し上げますとともに、ダライ・ラマ法王ならびに法王の平和的解決へのご尽力に絶えずご支援をいただいております欧州議会のみなさまに、心より感謝申し上げます。

布告なしに戒厳令が敷かれているチベットの現状

公聴会が開かれている今このときも、中華人民共和国のチベット地域は完全に封鎖されています。いかなる外国人もチベット地域へ入ることは許されず、インターネット、携帯電話など通信網はすべて断絶されています。町は治安部隊に制圧され、僧院、職場、学校では厳しい政治キャンペーンが繰り広げられ、人々は威嚇されています。チベット人の逮捕は日常的となり、尋問中および拘禁中における暴力や拷問も日常的に行なわれています。チベット地域には、宣告なしに戒厳令が敷かれ、これが強要されています。今、まさにこの瞬間にも、チベット本土のチベット人は二度目の祖国占領に晒され、文化大革命以来もっとも過酷な弾圧の波のなかにいるのです。

見誤った中国のチベット政策

中国政府のチベット政策は絶えず方向性を見誤ってきました。それは、チベット独自の文化、歴史、アイデンティティを尊重しようとも、認めようとも、理解しようともしてこなかったからです。中国に占領されているチベットにおいては、真実に生きる余地はまったくありません。チベット人を支配、管理するための主要な手段として武力が行使されていることにより、チベット人は恐怖に陥れられ、虚偽の発言を強いられ、チベット人役人は真実を隠蔽し、中国政府の思惑に合う虚偽の事実を作り出しています。その結果、中国の対チベット政策はチベットの現実から離れ続けています。そのような政策は、漢民族および漢文化優越主義という中国の汚面と、その根底にある政治不安の露呈でしかありません。このような目先のことしか見ていないアプローチでは、当然ながら逆効果でしかありません。

ストラスブール提案

ダライ・ラマ法王は、チベット人の自由を求める闘争を非暴力の道へと導かれ、中国との和解と歩み寄りという精神の下、対話を通じて双方が合意できる方法でチベット問題を解策する道を見いだすべく絶えず模索してこられました。ダライ・ラマ法王はそのような精神をもって、ここ、ストラスブールで開かれた1988年の議会において、中国に対する正式な対話の申し出のご意向を表明されました。ダライ・ラマ法王に中国との対話に向けての枠組みについてお考えを表明していただくことを選択された欧州議会のみなさまには、《真の統一とは、双方が互いを尊重し、これに関わるすべての当事者が満足のいく結果を得たときに自発的に生じるものである》という点を強調したいというお考えがありました。ダライ・ラマ法王もまた、そのような統一の手本として欧州連合を見ておられます。一方で、信頼と利点が欠如し、さらには支配する方法として武力が行使されるのであれば、ひとつの国、ひとつのコミュニティであってもふたつ以上に分離しかねません。

中道のアプローチ

後に「ストラスブール提案」として知られることになったこの提案は、中華人民共和国と手を携えてチベット全域が民主的な自治政体となることを構想するものです。この公式声明において、ダライ・ラマ法王は、チベットの独立を求める意志がないことを明らかにされました。ストラスブール提案の理念とは、和解と歩み寄りの精神であり、対話を通じて双方が受け入れることのできる方法でチベット問題を解決していくことにあります。このような精神は、ダライ・ラマ法王の「中道のアプローチ」として知られています。1989年3月に中国がチベットに敷いた戒厳令は一年間にわたって続きました。ストラスブールにおいて正式な提案が発表されて以降、チベットの事態はさらに悪化し、中国政府からの前向きな返答を引き出すことができなくなりました。これにより1991年、ダライ・ラマ法王は、ストラスブール提案は効力を失くしたとおっしゃらざるを得ない状況となりました。しかしながらダライ・ラマ法王は、「中道のアプローチ」の精神においてチベット問題を解決する道を模索し続けることに変わりはないことを確信しておられました。

一方、チベットでは憂慮すべき傾向が現れはじめました。チベットにおける資本市場の開放を巧みに利用しようと、中国人の移住者が洪水のようにチベットに押し寄せてきたのです。毎年、チベット内の中国人の人口は大変な率で激増し、従来その土地に住んできたチベット人を経済・政治・社会の周辺的な立場へと追いやっています。勢いが増す一方の中国人移民の流入に伴い、文化・宗教・教育においてあらたな規制がはじまり、チベット人の文化とアイデンティティという民族の核心部が絶滅の危機に晒されています。

このような懸念に早急に取り組まなければ、これまで交渉を試みてきたことの目的そのものが意味を失くしてしまいます。なぜなら、チベット内の状況を元に戻すことはできないという現実を、中国政府が作り上げてしまうからです。我々の西洋人の友人には、これを中国が用意したチベット問題の「最終解決策」と呼ぶ人さえいます。

そのような状況が背景にありましたので、ダライ・ラマ法王は、中国政府と心を通わせるべくあらゆる手を尽くされました。さらには、チベット亡命政権は「中道のアプローチ」の具体的な骨子の見直しを行ない、中華人民共和国の政治の現状に合わせてストラスブール提案のいくつかの条項を削除しました。ダライ・ラマ法王およびチベット亡命政権は、チベット独自の文化・言語・宗教・アイデンティティならびにチベット高原の壊れやすい自然環境を保護するというチベット人の基本的要求を確保したうえで、中華人民共和国という枠組みのなかで、チベット人が名実共に自治を享受できる道を求めていくという決断を下しました。

中国・チベット間の対話

2002年に中国指導部との直接的な接触が再開されたときには、チベット亡命政権は、対話のアプローチにおける明確な政策をすでに公式化していました。チベット亡命政権における我々の内閣であるカシャックは、ダライ・ラマ法王の承認のもと、中国指導部との対話においては、1本の公式ルートと1本の議題のみで臨むと決断しました。1本の議題とは、中華人民共和国憲法の枠組み内の一つの政権の下で、チベット人が名実共に自治を享受できる道を求めていくというものです。

私は、光栄にもダライ・ラマ法王の特使の一人に任命され、中国指導部の代表者との対話に臨んでまいりました。2002年以降、上司のロディ・ギャリ氏と3名のチベット人補佐官と共に、中国との8回の公式対話と1回の非公式対話に臨みました。

特使の主な使命は二つあります。第一の使命は、中国指導部との直接的な交渉の道を再び拓き、定期的に直接対話を行なえるような雰囲気を作り出すことです。第二の使命は、チベット問題を平和的に解決していくための真剣な折衝が行なわれるよう、ダライ・ラマ法王の中道のアプローチを説明していくことにあります。このような交渉を通じて誤解や不信を払拭し、さらには信頼関係を築いていけるよう、我々は全力で取り組んでおります。

以上のような精神の下、2002年9月、我々は初めて中国とラサを訪問しました。その後、チベット亡命政権の内閣主席大臣サムドン・リンポチェ教授は、亡命チベットコミュニティと各国の支援者に対し、中国人高官の訪問に伴うデモを控え、対話に向けての建設的な雰囲気の創出に協力するよう呼びかけられました。そのようにしてチベット亡命政権は、思慮を尽くして信頼関係を築くべく取り組んでまいりました。

チベット側からの提案・申し出

2002年の第一回目の対話の後、我々は信頼関係の構築に向けて双方が取り組んでいることの証として、ダライ・ラマ法王のお写真を所持することの禁止を解くことでチベット人に親善の意を見せてほしいと中国指導部に申し出ました。それが実現されれば、チベット人にとりましては重要かつ前向きな精神的メッセージとなります。我々はまた、亡命チベット人とチベット本土にいるチベット人が互いに行き来できるよう、また、学者や研究者など文化・宗教に携わる専門家が中華人民共和国と亡命チベットコミュニティの専門機関を互いに訪問しあえる機会を広げるよう提案しました。対話のなかで双方の見解に大きな相違があることが明らかになりましたので、我々は、まずは双方が共有する事項に集中して取り組むこと、そして、対話の回数を増やして1年に2〜3回行なうことを提案しました。2005年には、ダライ・ラマ法王の70歳の誕生日に際してご長寿祈願を行なうため、5〜10人の少人数の僧侶団がチベットのいくつかの聖地を訪問できるよう中国政府に許可を願い出ました。

双方の主要な見解に大きな相違があることにより、チベット本土の現況をめぐる我々の展望は対立してきました。そこで現況について共通の認識を持つため、2007年、我々は「事実から真実を探す」という精神の下、チベット本土の現状を見極めるための研究家チームを派遣する機会をいただきたいと中国政府に申し出ました。それにより双方の主張を超えて、前進できる可能性が生まれるのではないかと我々は説明しました。2008年、チベット全域にデモが広がり、さらにはオリンピックの聖火リレーが始まりますと、チベット人と中国人はもとより国際社会に対し、《ダライ・ラマ法王と中国指導部は、双方が受け入れることのできる解決策を見いだすという目標をもってチベット人に関するすべての問題に取り組む決意である》と明確に示すことが必要かつ適切な時勢となりました。そこで我々は2008年7月、第7回目の対話の結果として共同声明を発表することを提案し、その共同声明の草案を1部、記録として残すために提出しました。さらに遡りますなら、接触が開始された2002年4月18日、我々は当時の国家主席であった江沢民氏に書簡を送り、我々の使命はダライ・ラマ法王と中国指導部との直接対話を実現することであることも含めて説明しました。そのような会談が実現すれば、チベット人と中国人の間にあらたなページがめくられ、大きな進展となる可能性があるからです。以来、我々は、すべての対話において、ダライ・ラマ法王と中国指導部との直接対話を繰り返し提起してまいりました。2006年には、ダライ・ラマ法王は、巡礼のために中国を訪問したいというご希望を公の場で繰り返し述べられました。

中国側の態度と姿勢

残念なことに、我々の提案はひとつとして、中国側で検討されることも受け入れられることもありませんでした。また中国側は、信頼関係を築くための構想に応じることも、建設的な提案を行なうこともありませんでした。2002年に対話を開始して以来、中国側は、認識しない、互恵しない、関与しない、譲歩しない、妥協しないという姿勢をとり続けてきました。中国側は対話への扉は開かれていると今日でも公言し続けていますが、しかしながら、対話に向けての前進、決定、約束を忌避する戦略を維持し続けているのが現状です。昨年11月に行なわれた最後の会談では、このような中国指導部の政治的意思の欠如が明確に証明される結果となりました。

昨年7月の第七回目の会談のなかで、中国側ははっきりと、チベットの安定と発展に向けたダライ・ラマ法王からの提案をいただきたいとしたうえで、我々が求める自治の程度や形態についての見解を聞きたいと強調しました。これを受け、2008年10月31日、我々は「全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案」を中国指導部に提示しました(記録として残すために草案を1部提出)。この草案は、中華人民共和国憲法にある自治の原則が適用されることを通じて、チベット民族が自治政府の在りかたとして求めている具体的要求がいかに満たされるかを示すものです。中華人民共和国憲法は、自治組織の運営と意思決定における裁量権を州機関に与えています。そのような自由裁量権が行使されるならば、チベットが置かれている現状の特異性に呼応するかたちで名実を共にする自治を促進させることができます。このような考えに基づいて、ダライ・ラマ法王は、チベット民族の基本的要求は中華人民共和国の枠組み内で名実を共にする自治を確保することを通して満たされると確信してこられました。

残念ながら、中国側は草案を全面的に拒絶しました。会談のなかで、中国の朱維群上級副部長は、「草案のタイトルですら受け入れることは不可能だ。ダライ・ラマにはチベットの状況やチベット民族の代表者として語る権利などない、と何度言わねばならないのか」と発言されました。我々が、ではそもそも自治に関する我々の見解をなぜ要求したのかと訊ねますと、「中央政府の位置づけと方針をどこまで理解しているのか試すためだ。あなた方は無惨にも試験に落ちたということだ」という答えが返ってきました。(資料として、中国側のチベット草案拒絶に関するプレスリリースを提出)

チベット問題に対する中国の基本姿勢

2007年6月29日から7月5日にかけて行われた第六回目の会談において、中国側は以下のように基本姿勢の概要を示しました。

「第一に、ダライ・ラマは中央政府との交渉を継続していくには政治的原則を受け入れなければならない。政治的原則とは、チベットはこれまでずっと中国の不可分の一部であったと認識することである。これは歴史学的な問題ではなく、政治的見地の問題である。

第二に、中央政府とダライ・ラマとの交渉の本質について正しく理解する必要がある。ここでいう交渉とは、ダライ・ラマとその周辺の一握りの人物について交渉することをいう。この範囲を超えてはいかなる対話もあり得ない。チベット問題などというものは存在しない。チベットに住むチベット民族は幸福に暮らしている(第八回目の会談において、中国側はこの姿勢をさらに明確に示した)。ダライ・ラマには、チベット内部の状況を語る権利もチベット民族の代表者として語る権利もない。ダライ・ラマが語ることができるのは、ダライ・ラマとその周辺の人物の個人的な問題のみである。

第三に、交渉している相手の立場を正しく理解する必要がある。我々の立場とあなた方の立場を正しくわきまえる必要があるという事実を正確に認識する必要がある。我々の交渉は、中央政府とダライ・ラマの個人的な代理人の間で行われるものである。中央政府といわゆるチベット亡命政権との間では、交渉も対話もいっさい行われない」

2008年11月に行なわれた最後の会談以降、中国政府は大規模なプロパガンダを繰り広げています。これはチベット民族を残忍な方法で征服した事実を取り繕い、チベット民族主導の名実を伴う自治を拒絶したことを正当化するために我々の姿勢を歪めて伝えようとするものです。我々の姿勢につきましては、会談のなかで口頭のみならず文書においても繰り返し明確にしてまいりました。しかしながら中国側は、我々の姿勢を歪め、数々の問題において世界を欺き続ける道を選択しています。

中国が歪曲するチベットの立場

チベットの歴史的状況

チベット民族と中国政府は、チベットの歴史的状況について互いに異なる見解を持っています。中国政府は、チベットはこれまでずっと中国の不可分な一部であったと主張し、ダライ・ラマ法王にこれを公認するよう要求しています。これが対話の大前提であるというわけです。 チベット人にとりましては、チベットはずっと独立国家でした。そのような背景から、我々は、まずは歴史のことは脇においておくよう繰り返し中国側に提言してまいりました。歴史を見直すことは、双方が受け入れることのできる解決策を見いだす道をさらに複雑にするだけであり、解決に向けての有効な手立てとはいえないからです。我々は現在と未来に向き合うことで、中華人民共和国憲法の枠組みの範囲内で解決策をみつけるべく全力を尽くしていく所存です。

中国軍のチベット駐留

この問題につきましては、我々の立場ははっきりしています。我々は一貫して、防衛と外交政策の権限は北京の中央政府にあるという立場を貫いてまいりました。ダライ・ラマ法王は、五項目和平案(1987年)やストラスブール提案(1988年)のなかで、チベット高原が最終的には非武装平和地帯となることを個人的に願っておられると表明されました。そのような構想は、インド・中国間の信頼関係の構築ならびにこの地域の安定と平和に多大な貢献を果たすものです。これは平和のために献身するひとりの人間が未来のために思い描くビジョンであり、チベット問題を解決するための条件ではありません。これにつきましては、中国側の代表者に繰り返し説明してまいりました。

さらには、先に述べましたように、ストラスブール提案の公式発表は、「中道のアプローチ」の特徴を明示する結果となりました。我々は会談のなかで、ダライ・ラマ法王はご自身の立場に関する誤解について明確にすることを望んでおられる旨を中国側に伝えました。チベット問題の解決に向けてのダライ・ラマ法王の新たな声明が中国側にとっても受け入れることのできる内容であることを保障するためにも、我々はダライ・ラマ法王の声明について中国側と協議に取り組みたいと申し出ました。しかしながら、中国側は我々の提案に一度も応じませんでした。

チベット地域からの非チベット人排斥について

国家の地域自治や自治政府の根本的な目的は、少数民族のアイデンティティ、文化、言語等を保護することにあります。しかしながら、漢民族をはじめとする非チベット民族の大量移住を国が奨励するのであれば、地域自治の目的や原則そのものが無視されることになります。他民族の移住による人口の大規模な変動は、チベット民族を中国国家に統合するというよりも同化に向かわせ、チベット民族の文化やアイデンティティを次第に絶滅させてしまいます。

市民の移住や居住地の規制については、中華人民共和国に優先権があります。しかしチベット民族にとりましては、中華人民共和国の他地域からチベットへの移住を希望する人々の居住、雇用、経済活動を規制する権限を自治政府の自治機関が持つことこそが生命線となるのです。チベットで育ち、暮らしてきたような長年にわたってチベットに永住している非チベット人を排斥しようという意思は、我々にはありません。

チベットの旧社会政治体制の回復

我々には以前の社会政治体制を回復させる構想はありません。チベット内のチベット人も、亡命チベット人も古い体制を復活させることを希望してはいないのです。亡命チベット人は政治システムを民主化し、亡命政府の指針となる民主的憲章を採用しました。政治指導者たちも現在は直接選挙で選出されるようになっています。

この件に関するダライ・ラマ法王のお立場については、2005年にご自身で次のように繰り返し述べておられます。「私がチベット問題に関与するのは私自身の権利や政治的立場を主張するためでも、チベット亡命政権の立場を主張するためでもありません。1992年の公式声明で明確にした通り、ある程度の自由を手にチベットに帰還した暁には、私はチベット政府のいかなる役職にも就かずあらゆる政治的立場から退くつもりです。現在の亡命政府は解散し、チベット内のチベット人が主となりチベットの統治責任を負うべきだと考えています」

私たちはかつての社会政治体制を回復しようとしているのでもなければ、それを現在の社会主義体制に取って代えようとしているのでもないのです。

「大(グレーター)チベット」論争

そもそもチベットには「大チベット」も「小チベット」もありませんが、文献の中で「 政治的チベット」と「文化的あるいは民俗学的チベット」とに区別されている場合があります。政治的チベットと表現される地域は1951年まで中国の一部であったことはありません。文化的あるいは民俗学的チベットは定義上、中華人民共和国憲法の原則に基づいて民族区域自治権を有することが許される地域です。ということで「大チベット」という用語には基準が存在しないのです。

中国側は我々が中国領土の4分の1の分離を要求していると決めつけていますが、我々は中国からの独立を訴えているわけではないので領土の分離に関して憂慮する必要はないはずです。さらに重要な点ですが、広大なチベット人の生活圏は歴史的にも地理的にももう既に中国領地のおよそ4分の1を占めているのです。中国政府は既にチベットのほとんど全域をチベット自治区域、つまり、チベット自治区、チベット自治州およびチベット自治県に定めているのです。従って文化的あるいは民族学的チベットがどこを指しているかに対する中国政府の捉え方と我々の考え方にさほど違いはないのです。

我々はチベット民族が中華人民共和国内の一つの自治区域で生活できるように要求していますが、歴史に基づいてそうあるべきだと言っているのではありません。その要求の基礎にあるのは、中華人民共和国憲法に謳われている民族区域自治の権利と全ての民族は平等であるという原則なのです。

現在の行政区分ではチベットは異なる省や区域に分割され統治されているため、分裂や発展のばらつきが助長され、民族として共通の文化や精神そしてアイデンティティを共に守り育む力が充分に発揮できない状況にあります。ウイグルやモンゴルなど他の主要な少数民族がほとんど完全に一つの民族区域内で自治を行っているのに対し、チベット民族は未だに数種類の異なる民族であるかのように分裂させられたままなのです。

全チベット民族に対して行政管理能力を持つ自治体が機能して初めて、中国内でチベット民族が効果的に自治を行い内政管理ができるようになることは明らかです。民族区域自治法には民族自治区域の境界は修正が必要な場合もあると書かれています。かつて実際に修正が加えられた前例もあるのです。

チベット民族統一を分離主義者の陰謀の隠れ蓑であると捉えるべきではありません。これはただ単純に、統一されたチベット民族を中華人民共和国の一員として、また独自の民族として復活させ、認め、尊重するかどうかという問題なのです。民族の統一が達成されればチベット民族間には中華人民共和国の一員として恩恵にあずかっているという共通の認識が生まれるでしょう。チベット民族を統一させることで中国政府はチベット民族を独自の民族として尊重していることを具体的に示すことができるのです。

チベット側の対話への取り組み

ダライ・ラマ法王は国が重要な問題に直面し意思決定を求められている時にはいつも、チベット人社会を代表する様々な分野の人たちの意見に耳を傾けてこられました。亡命チベット人社会では民主制度によって人々が意思決定に意見を反映できることが保障されています。ダライ・ラマ法王は中国政府にどう対応していくべきかという重要課題のためにチベット民族による特別総会を招集され、これからの政策の方向性を検討するよう要請されました。昨年チベット高原中に抗議運動が広がり、それに対して中国当局と治安部隊による徹底的な取り締まりが行われました。8回に及んだ中国側との公式会談も失敗に終わり、11月、ついにチベット民族による特別総会が招集されたのです。亡命チベット人社会の様々な分野を代弁するおよそ600人の代表が世界中から集まりました。チベット内のチベット人からも意見を収集するために特別な努力が払われました。

厳しく切迫した雰囲気の中で六日間にわたって真剣かつ熱心な討論が行われた結果、代表者の大多数が当座はダライ・ラマ法王が提唱される中道のアプローチの継続を支持することで合意に達しました。その一方で少数ではありますが、この自由を求める闘争が目指すのは正当なチベットの独立であるべきだという強い声もありました。最近支持者を増やしている声でもあります。これから先も中国共産党はチベット民族のための真の自治について真剣に話し合うつもりは全くないだろうというのが彼らの主張です。この自由を求める闘争で非暴力を貫くことに関しては全員の合意が得られました。

チベット民族による特別総会の決議を受け、ダライ・ラマ法王は3月10日の声明の中で「我々はこの(中道のアプローチ)政策をさらに自信を持って推し進め、全てのチベット人のための真の民族区域自治を目指し努力していく所存です」と強調されました。我々にはチベット民族の自治について中国政府と誠実に話し合いをする準備が整っています。今こそ中国政府はチベット内のチベット民族が抱える現実問題に誠意を持って真剣に取り組むべきです。

中国政府が本気で合図を出してくれさえすればいつ、どこででも話し合える準備をしながら、同時に私たちは中国人民と理解し合えるように努力を惜しまない決心でおります。昨年チベット中でデモが起こり、オリンピック聖火リレーが向かう先々で抗議運動が起きてからというもの、中国政府は中国人民の愛国心をあおり、「分離主義者に対する人民戦争」を呼びかけ人民の心にチベット民族に対する憎しみを植え付けようとしてきました。しかし今、中国では有識者を中心により多くの人民が政府の対チベット政策に批判的な意見を持つようになってきています。中国の知識人や法律家がチベット問題への政府の対応に公の場で疑問を投げかけています。このような展開に我々も勇気づけられている次第です。

国際社会の役割と責任

中国・チベット双方が納得できる解決策を模索するにあたっての問題点は、我々チベット民族には率直な話し合いをしようにも相手がそこにいないということです。その意味でもこの公聴会は非常に重要です。チベット問題は中国が誠意を持ってそれに取り組み解決される日まで、握りつぶすことも封じ込めることもできないのだということを中国指導部に知らしめる必要があります。中国指導部にとって世界の評価は重要な意味を持っています。国際的に認められ尊敬を勝ち得ることが中国政府の優先課題の一つだからです。ですから今、チベット問題に対する統一された強いメッセージが中国政府に届けられることが必要なのです。

我々チベット民族は皆さまの助けを必要としています。まずはじめに、中国当局および治安部隊が裁量権を乱用しないようチベットを外の世界に開かなければなりません。国際社会の目が光っていれば中国当局も治安部隊も行動を自重し、それがチベットで身柄を拘束されているチベット人に対してもある程度の安全保障として機能してくれるでしょう。中国、チベット双方が納得できる公正、平等な解決策を見いだすためには、最終的にはその交渉に真剣に応じる相手が交渉の場に同席していなければなりません。今日、私たちは国々が互いに深く依存し合いながら存在する世界に暮らしています。チベット民族が将来自由な環境で尊厳をもって生きていけるのか、あるいは引き続き厳しい弾圧のもとでの生活を強いられるのか、その運命は中国指導部のみに委ねられているわけではありません。チベット・中国問題に対する欧州連合の政策もまたこの悲劇の成り行きに影響を与えるのです。これまで欧州議会はチベット問題に関して平和的解決を目指す合意を得るため常に主導的役割を果たしてきました。そのご努力に対して、我々は改めて心からのお礼を申し上げます。

(翻訳:小池 美和・熊谷 恵雲・中村高子)

ダライ・ラマ法王特使 ケルサン・ギャルツェン氏について

経歴

  • 1951年 チベット・カム地方に生まれる
  • 1963年 勉学のためスイスへ。ビジネスおよび経営管理について学んだ後、1983年までスイスの大手銀行に幹部として勤務
  • 1983年 インド・ダラムサラの中央チベット政権の情報・国際関係省(外務省)において1年間のボランティアに従事
  • 1985年 スイスにあるチベット事務所においてダライ・ラマ法王の代理人に任命
  • 1992年 インド・ダラムサラにあるダライ・ラマ法王事務所に異動し、ダライ・ラマ法王の秘書官となる
  • 1999年 再び欧州へ異動し、ダライ・ラマ法王の駐欧州連合特使となる
  • 2005年 スイス・ジュネーブにあるチベット事務所の代表となり2008年春まで 兼任。現在は、ダライ・ラマ法王により任命されたチベット代表団特使のひとりとして中国政府との交渉にあたっている

職務

ダライ・ラマ法王が委任された2名の高官特使のうちのひとりとして、2002年以降、中国指導部との8回の公式会談と1回の非公式会談に臨むとともにチベット交渉対策本部のメンバーを務めてきた。

ダライ・ラマ法王は、チベットの分離独立を求めているのではないことを明確に表明しておられ、中華人民共和国という枠組みのなかで名実を共にする自治権を確保すべくご尽力されている——これを伝えるべく、中国政府代表団との対話にあたっている。

ダライ・ラマ法王の駐欧州特使として、チベット亡命政権と中華人民共和国との対話の促進を図ることを主要な職務とし、これを全うすべく、ダライ・ラマ法王の中道政策を欧州諸国に伝え広め、支援を得、チベット問題が平和的に解決するよう取り組んでいる。

ダライ・ラマ法王の特使という立場から、チベットに関する講演やインタビューにも精力的に取り組み、チベットの人々の苦悩に光をあてるべく尽力している。

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