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チベット民族蜂起39周年 3月10日声明

(1998年3月10日)

西暦2千年台も間近に迫った今日、世界の至るところで大きな変化が生じています。新たな紛争発生の事例もある一方、世界の多くの地域で問題解決へ向けて対話と和解の精神が芽生えている点も見逃せません。これは、とても望ましい傾向です。ある意味で、この20世紀は、戦争と流血の世紀と呼ぶこともできるでしょう。けれども、今世紀の苦い経験から大多数の人類が教訓を得たであろうと私は信じております。その結果、人間社会は一層成熟の度を増したはずです。従って、決意と献身さえあれば、来るべき21世紀を対話と非暴力による紛争解決の世紀とすることも、決して夢ではありません。

本日私たちは、チベットの自由のための運動を開始してから39周年の記念日を迎えました。私はこの機会を借り、逆境に直面したチベット国民が発揮している不屈の精神と忍耐強さに対し、心からの感謝と深い敬意を表明したいと思います。チベット本土の現状、とりわけチベット問題解決の糸口が見出せないことにより、多くのチベット人たちの間で不満感が高まっている点は間違いありません。もはや平和的な解決以外の方向へ活路を見出さざるを得ない…と一部の人々が感じてしまうことを、私はとても憂慮しております。そうした人たちの置かれている苦境はよく理解できますが、我々の自由のための運動で非暴力路線を堅持することの重要性を、私は再度強調したいと思います。自由を求める長く険しい道程にあって、非暴力路線は、常にその大原則たるべきです。長期的には、そうしたやり方こそが最も有利かつ現実的な道である点を、私は確信しております。これまで平和的に運動を展開してきた成果として、私たちは国際社会から共感と賞賛を得ることができました。こうした非暴力による自由の為の運動を通じ、私たちは1つの実例を築き上げ、それによって非暴力と対話の政治風土を地球規模で育んでゆくことにも貢献しているのです。

世界規模の広範な変化の波は、中国をも呑み込んでいます。?小平氏によって口火を切られた改革派、中国の経済ばかりでなく、政治制度をも変えつつあります。つまりイデオロギー色が弱まり、大衆動員への依存度が低下し、威圧的な姿勢も和らぎ、一般市民にとっても息苦しさが少なくなる…といった変化が生じているのです。政府が、以前よりずっと分権的になっている点も注目に値するでしょう。さらに?小平後の中国指導部は、国際政策の面でも一層柔軟化しているように思われます。その兆候の1つは、中国がより積極的に国際会議へ参加し、国際組織や機関に協力するようになってきた点です。特筆すべき進展と成果は、昨年の香港返還が円滑に行われ、その後も北京が香港に関する問題に現実的かつ柔軟に対応してきたことでしょう。さらに、台湾との直接交渉再開について最近北京から出された一連の声明も、中国側の姿勢が明らかに軟化している事実を反映しています。

いずれにせよ、今日の中国が15年ないし20年前と比べて住みやすい場所になっている点は、もはや疑いようもありません。これらは、賞賛に値する歴史的な変化です。しかしながら、中国は依然として、重大な人権問題をはじめ、深刻な難題を抱えています。中国の新しい指導部が—自信をもって—より大きな自由を国民に与える先見性と勇気を獲得するように、私は希望しております。いかなる社会に於いても、物質的な進歩と快適さだけで、人々の求めるものを完全に満たすことはできません。それは歴史を顧みるならば明らかです。

中国自身の発展に関しては、こうした明るい要素が見られますが、その反面でチベットの状況は、残念ながらここ数年来の悪化の一途を辿っています。チベット文化の計画的な抹殺というべき政策を、北京が断行しようとしてることは今や明白です。チベットの宗教や民族主義に対する悪名高い「厳打」キャンペーンは、年々増強されています。この弾圧キャンペーンは、当初僧院や尼僧院を狙い撃ちにしていましたが、今ではチベット社会のあらゆる部分に対象を拡大しています。チベットでの生活のある領域に於いては、「文化大革命」当時を彷彿させるように、脅迫と威圧と恐怖に満ちた雰囲気が戻ってきているのです。

チベットでは人権侵害の事例が広がり続けています。これらの権利の蹂躙は、明らかな特徴をもっています。チベット人たちを骨抜きにして、民族独自のアイデンティティーや文化を主張したり、それらを守ってゆこうと望んだりするような、そうした気概を奪ってしまうのが狙いなのです。チベットの仏教文化は、慈しみと思いやりを根本とし、そうした価値や概念を通じて、チベット人たちを鼓舞しています。それは、実際に有益で、しかも日常生活に即した文化であり、だからこそ守ってゆく必要があるのです。このようにチベットに於ける人権侵害は、しばしば民族的、或いは文化的差別政策の結果として生じているのであり、より深い問題の兆候や帰結に過ぎません。それだからこそ、チベットで多少の経済的発展があったにもかかわらず、人権状況は改善されていないのです。チベット問題の根幹に踏み込まない限り、人権問題を克服することはできません。

チベットに於ける悲しむべき事態が、チベットの利益にも中国の利益ならないことは、火を見るよりも明らかです。現在の状況が続く限り、チベットの人々の苦しみが減ることはあり得ないし、中国も北京の指導部にとっての最優先課題—安定と統一—を確保することができないでしょう。中国指導部の主な関心事の1つは、国際的なイメージと立場を改善することです。しかしながら、チベット問題を平和裏に解決できていないからこそ、中国の国際的なイメージや評価は傷ついているのです。チベット問題の解決は、中国の対外イメージ向上に量り知れない好影響を及ぼし、香港や台湾との関係にもプラスになることは間違いではありません。

チベット問題を相互に受け入れ可能な形で解決することについて、私の立場は極めて単純明快です。私は独立を求めてはおりません。これまで何回も申し上げてきたように、私が求めているのは、真の自治を獲得する機会がチベットの人々に与えられることです。それは何のためかといえば、チベットの文明を保存するとともに、その独自の文化、宗教、生活様式を育成・振興するためにほかなりません。チベットの人々が、自らの独特な仏教文化の伝統を守りながら生存してゆけるという、そうした状況を間違いなく確保することこそ、私の主要な関心事なのです。そのためには—過去数十年の経験からも明らかに見てとれるように—チベット人たちがチベットの内政全般を掌握し、社会や経済や文化の面での発展を自由に決められる仕組みが欠かせません。中国の指導部とて—基本的には—この点に何の異存もなかろうと思います。歴代の中国指導部は、チベットに於ける中国の存在について、チベット人に福利向上のために機能し、チベットの「発展を助ける」ものだということを、いつも強調してきました。従って、政治的にその意思さえあれば、我々との対話に入ってチベット問題の解決に着手することが、中国の指導部にとって不可能なはずはありません。これこそ、中国指導部が自らの最大関心事だと強調している安定と統一を確保するための、唯一の正しい道筋なのです。

この機会を借りて、中国の指導部に対し、私の諸提案を真剣かつ実質的に検討してくださるよう、再度促したいと思います。対話、そしてチベットの現実を率直に直視する意思こそが、実行可能な解決へ私たちを導いてくれるのです。私たちの全てが、実際に発生したことから真実を探求し、過去を冷静かつ客観的に研究した成果に学び、勇気と洞察と英知をもって行動すべきであり、今やその機は熟しています。

交渉では、有効と互恵に基づいて、チベット—中国両国民間の関係確立を目指さなければなりません。そして、安定と統一を確保すること、自由と民主主義に基づく真の自治権限をチベットの人々へ付与すること、その結果として彼らがチベット独自の文化を保存・育成できるようにすること、またチベット高原のデリケートな環境を保護できるようにすることなどを、交渉によって目指すべきなのです。これらは基本的な事柄です。しかし中国政府は、問われるべき真の問題から焦点をそらそうと、様々な努力を続けています。彼らは、私たちの運動が目指しているものを歪曲し、チベットの古い社会制度やダライ・ラマの地位と特権の復活を目論んでいると主張しています。けれども、ダライ・ラマ法王制度に関する限り、1969年には私の考え方を公表し、その中で制度存続の可否を決めるのはチベット国民だと明言したはずです。さらに私自身は、1992年の公式声明に於いて、この点を一層明確にしました。つまり、私たちが将来チベット本土へ帰還した暁に、私自身はいかなるチベット政府の地位にも就かないということです。亡命チベット人にせよ、本土に居住しているチベット人にせよ、チベットの古い社会制度の復活を望む者など一人もいません。従って、中国政府がこうした根拠のない歪曲されたプロパガンダを流し続けても、全く意味のないことです。これは、対話へ向けた良好な雰囲気作りに役立ちません。そうした無意味な主張を、北京が撤回するように私は希望しております。

多くの国の政府、議会、非政府組織、チベット支援団体、そして個人の皆様が、チベット本土に於ける抑圧を深く憂慮し続け、平和裏の交渉を通じてチベット問題を解決するように促していることに対し、私は心から敬意と謝意を表明したいと存じます。アメリカ合衆国は、我々チベット人と中国政府との間の対話を促進するために、先んじてチベット問題特別担当調整官を任命しました。欧州議会とオーストラリアの議会も、同様の議案を提出しました。昨年12月、国際法律家委員会は『チベット—人権と法治』と題して、チベットに関する3冊目の報告書を発行しました。これらは、いずれも時宜を得た行動であり、最も励みになる進展です。さらにまた、チベットの人々の基本的な権利、そして私が採用している「中道的アプローチ」に対し、我らが兄弟姉妹たる中国人の皆様の中で—中国国内でも海外でも—共感や支持や連帯の輪が広がっている点こそ、まさに特筆すべき励ましであり、私たちチベット人を大いに勇気づけてくれるものです。

またインドが独立50周年を迎えたこの機会に、私はチベット国民を代表して、心から祝意を表明するとともに、インドの国民と政府に対する敬意と謝意を繰り返し述べたいと存じます。インドは大多数の亡命チベット人にとって、まさしく第二の故郷にほかなりません。私たちチベット人難民に、安全な亡命先を提供してくださる恩人です。そればかりでなく、非暴力主義の哲学や深く根付いた民主主義の伝統を通じて、インドは私たちに善き手本を示してくださいました。それを見習いながら、私たちは自らの価値観と希望を生み出し、形づくってきたのです。そして、チベット問題を平和的に解決するにあたっても、インドは建設的で影響力のある役割を演じることができるし、また是非ともそうしていただきたいと思います。私の「中道的アプローチ」は、チベットや中国に対するインドの基本政策の延長線上にあります。ですから、チベット人たちと中国政府との間で対話を促進することについて、インドが積極的に関わってはならないという理由など、何一つ見当たりません。チベット高原に平和と安定が訪れなければ、もし中印関係の中で本当の信頼と信用を回復しようとしたところで、絵に描いた餅に終わってしまうことは明らかでしょう。

将来予定されていた国民投票について、私たちは昨年、亡命チベット人たちの世論調査を実施し、また可能な限りチベット本土の各地からも提言を集約しました。国民投票とは、私たちの自由を目指す運動の今後の路線を決定し、それを完全に民意に沿った形で進めるためのものです。去年の世論調査の結果と本土から集約した提言に基づいて、チベット国民代表者議会(チベット亡命政権の議会)は、国民投票に頼らず自らの裁量で事にあたる権限を引き続き私に付与する決議を採択しました。私はチベット国民に対し、かくも絶大な信頼と信任と希望を私に託してくださったことを感謝したいと思います。これまで採用してきた「中道的アプローチ」が、チベット問題を平和裏に解決するために最も現実的で実際的な道であると、私は信じ続けています。この方法こそ、チベットの人々がどうしても必要とする事柄を満たすとともに、中華人民共和国の完全と統一をも確保するものです。それゆえ私は「中道的アプローチ」に全てを託してその路線を追求し続け、中国の指導部へ働きかけるために誠実な努力を重ねてゆく所存です。

チベットの自由のために命を捧げた勇敢な人々に対する敬意を込め、我が国民の苦しみが速やかに終結すること、そして全ての生き物の平和と幸福を、私は祈りたいと思います。

1998年3月10日
ダライ・ラマ

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