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オーストラリアでの企業家向け講演のレポート
「21世紀は一人では行けない」

(2007年6月22日 オーストラリア The Age誌 Stephen McGrail)

人類のチャレンジは個人の到達点を超える

「企業責任」賛同者たちが提唱する「倫理的利己主義」は、
ダライ・ラマ法王の考えと一致する(写真:Jacky Ghossein)

過去もそうだったし、現在もそうであるし、そして未来においても、「ダライ・ラマ」は「ダライ・ラマ」でありつづける。その「ダライ・ラマ」法王が、ビジネス界に向けて発したメッセージ。優しさと真の共感を求めてやまない法王の言葉には、「倫理的利己主義」の背景や本質に対する、明敏な観察を見ることができる。わたしたちは、新しい認識や概念をもって、違った角度から効果的に、21世紀を見つめていかなければならない。

6月9日に行われた「世界普遍の責任」という講演の中で、ダライ・ラマ法王は、「新しい現実」というテーマについて話をされた。まず、人類が直面している課題はもはや個人の努力の範囲を超え、相互依存がますます重きを増してきているという「現実」。人口の爆発、持続不可能なやりかたでの自然からの搾取、国の内外に広まる不平等、地球温暖化。どれをとってみても、「人類を一つとして、つまり一個の実体が同じ脅威に晒されているのだとして」考えなければならない課題ばかりだ。「世界のすべてが実施しないのなら自分のところだけでやっても意味がない」温室効果ガス削減を求める声に対してオーストラリアからあげられるもっとも典型的なこの反論などは、法王の言葉をはっきりと裏づけている。

さらに法王は、「あるところで起きたインパクトは、すぐにほかのところに波及する」という事実について言及された。地球規模の金融市場の広がりや、あっという間に世界中をかけめぐっていくニュースなどを例に、「"我々と彼ら"という考えはもう通用しません」「ほかの世界も自分の一部なのだと考えなければならないのです」そう述べられた。

「わたしたちの認識と新しい現実との間にギャップがあるのは、わたしたちが未だに前世紀の考えを元に生きようとしているからであり、そして間違った認識は間違った方法を生みだしてしまいます」という法王の説明は、もっとも核心をついたものだといえよう。

20世紀のビジネス界では、最短期間で最大限の利益を上げることにのみ焦点がしぼられていた(経済的側面だけではなく、環境的側面、社会的側面、この三つの側面をバランスよく調和させながら長期を見据える「トリプル・ボトム・ライン」の結果については考慮に入れられていなかった)。活動家や厳しい意見を持つ株主の声には耳を貸さず、ただひたすら、規制をかいくぐることの許される許認可にのみ意識を注いできた(広い意味で社会的に「許される」必要はなかった)。そして問題が起きると、"我々と彼ら"という考えでもって臨もうとした。

今日のビジネス界では、認識を誤ると戦略も間違えたものになってしまい、そして社会からの評価を落とし、ビジネス機会を失っていくことになるケースが増えつつある。何よりも、認識が間違っていれば、上で述べたような地球規模での大きな課題に効果的に取りくむことなどできるはずがない。

ダライ・ラマ法王は、幸せな人生を送れるかどうは(その意味においてビジネスが成功できるかどうかは)社会やコミュニティ全体に負っている、という観点も示した。つまり、個々の人びとが、所属するコミュニティから安定した利益を享受することができるかどうか、ということ。「企業責任」という考えに賛同する人たちが提唱する「倫理的利己主義」という考え方は、法王が述べるところと歩を一にするもので、ますます重要になりつつある。今やビジネス界は、はっきりと、時として公の立場をとる形で、地球規模で協力しあう市民としての新しい責務に、また、複雑な環境問題や社会問題へ率先して関わってほしいという新しい期待に応えようとしはじめている。こうした姿勢は、長い目で見れば、社会のためだけでなく、ビジネス利益にもつながっていくものだ。

法王のメッセージはまさに時を得たものではあるが、何も新しい考えではない。30年前、バーバラ・ウォードという経済学者が、惑星全体を見据えた責任感を世界中の人びとに訴え、地球上で不利な立場にある人びとが幸福になれるよう、環境が回復していくよう、同時に働きかけていく決意を、共に抱いていこうと呼びかけた。

ウォード氏は、ただ単に時代の先をいきすぎていただけだ。今になってようやく、地球という星が目を覚ましはじめている。わたしたちが、その目覚めの中で生きているのは間違いない。自分の行動が地球全体にどのような影響をおよぼすのか、わたしたちはより深く気がつきはじめている。またわたしたちは、より地球規模で、つまりさまざまな場所でさまざまな人たちとつながりはじめている。世界中で何が起こっているのか、以前とは比べものにならないくらいわかるようになり、そして地球が健康であることが、わたしたちの健康に、ひいてはわたしたちの経済にどう影響するのかについても、気づきを深めている。さらに、温暖化のような地球規模の問題が、協議すべき事項のトップを占めるようになってきたが、こうした問題を効果的に扱えるのは、大きな企業か、あるいは国の政府から独立できるNGOでしかない。

法王の明敏な観察は、未来派の一人、ピーター・エリヤード博士の研究とも共鳴しあっている。エリヤード博士は、ここ十年の間、大きなパラダイムシフトが急激に進んでいることを説きあかしてきた。「わたしたちは支配的世界観の変化を目撃している」、と博士は主張する。その変化とは、博士によれば、「モダニズム」つまり近代主義から「プラネティズム」つまり地球主義への転換だ。大衆の考えや市場は、今やこの新しいパラダイムによって形づくられ、2020年までには、こちらが支配的世界観になっていくだろうと博士はいう。

エリヤード博士の研究によれば、彼が呼ぶところの「プラネティスト」たちが、この新しいパラダイムを価値観の変化として具体的に提示してくれている。

  • 独立ではなく、相互依存。
  • 個人主義ではなく、共同体主義。
  • 民族や国家優先ではなく、地球優先。
  • 自然から分離した人類ではなく、自然の一部としての人類。
  • 争いが起きたとき、衝突や戦闘ではなく、歩みよりと交渉を通して解決する。
  • 持続不可能な開発から離れ、持続可能な製品を用いて持続可能な生活を送る。

そして最後に、

  • 独裁政治ではなく民主政治。

法王はまた、世界全体におよぶ責任を受けいれ、すべてが相互に関係していることや依存しあっていることにより深く気づく必要性も説いたが、「プラネティズム」がこうした考え方も包合した世界観であることは明らかだ。法王の主張は、地球規模で広がる持続可能性を求める動きともほぼ同じラインに並んでいる。「プラネティズム」は新しい言葉ではあるが、その考え方自体は、すでにビジネス界に影響を与えはじめていて、近い将来、その影響の度合いはさらに広がっていくように思われる。

こうして新しい価値観がよりはっきりと具現化してきたことで、期待されるビジネスのあり方や、問題解決に当たって望まれる方法などに劇的な変化が生まれ、現在目のあたりにできる地球規模のつながりあいがさらに加速していっている。持続可能な発展という課題を持つ現在の状況下において、ビジネス界が、過ぎさった世紀からこぼれた遺物に自分たちの戦略をとどまらせておくほど愚かではないことは、明らかなことだ。

ダライ・ラマ法王やエリヤード博士、それに「フューチャーアイ」のコンサルタントたちは、21世紀には三つの価値観からなる持続可能型の新しいアプローチが必要になるという点で、意見を同じくしている。それは、総合的な見通しに基づいたビジネスの一部となるべきアプローチで、リスクとチャンスをより広い目で評価できるようになること、"我々と彼ら"という考え方に異を唱えること、「倫理的利己主義」の本質に新しい目で臨むことなどが含まれる。

「新しい現実」と「世界普遍の責任」を包合するこうしたアプローチは、法王によれば、「忍耐と決意と、そして後ろではなく前に目を向けることが必要」とされる。しかしながら法王のメッセージは楽観的で、このアプローチをとれば、企業のトップは自分たちのビジョンをより明確にさせ、ビジネスは新しい期待に応え、社会は持続可能なものへとなっていくだろう。


※この記事の筆者 ステファン・マクグレイル Stephen McGrail は企業の戦略顧問団「フューチャーアイ」の先見の明に満ちたマネージャーである。

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